血と愛
□10:そして、蘇る
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呆然と呟いた僕に、にっこりと笑みを浮かべたその人は。
「お久しぶりね、成歩堂君。と言っても、私はずっと、あなたのことは見てきたのだけれど……ようやくお話できて嬉しいわ」
「そ、え……は??」
確かにあの日、僕の目の前で死んでましたよね?
ていうか僕、ちゃんと千尋さんのお葬式しましたよね?
お墓たてました、いっぱい涙流しました。
真宵ちゃんと一緒に悲しみました……て、真宵ちゃんはどこに行ったんですか?
声にならない疑問たちが、ぐるぐると脳内に駆け巡るのに忙しくて、まともな受け答えなんてできない。
そんな僕に変わって、御剣が一人ごちるように言う。
「反魂魔法…?」
そんな呟きに反応したのは、他の誰でもない、千尋さんだった。
「正確には、降霊魔法、もしくは召喚魔法かしら。私の肉体は、あの日確かに滅んでしまったから。真宵はすっかり立派な大魔女よ、私の魂を自分の体にしっかりと受け入れられるくらい、力をつけたのだもの」
綾里の一族は、降霊魔法を秘儀に持つのだから。
そう言って、本当に嬉しそうに、楽しそうに彼女は笑う。
まるで、生きて、そこに居るかのように。
僕はもう、脳内真っ白状態で、ただただそんな師匠の姿を見つめた。
そんな僕の様子を、千尋さんは慈愛溢れる顔で見守り、かと思うとキッと狩魔豪へと視線を移す。
「私の仇でもある貴方に、大事な弟子まで奪われるわけにはいかないわ。もちろん、弟子の恋人である御剣君もね」
「ちょっ、待って下さい千尋さん!」
恋人なんかじゃありませんッ…!!
盛大にツッコミ入れたくなる発言に、思わず待ったをかけたけど。
そんな僕なんて置き去りにして、またも一触即発な雰囲気に包まれる。
「綾里千尋……まったく、どいつもこいつも往生際の悪いッ」
たかが魔女が一匹加勢に来たところで、我輩の敵ではないわ!
そう言いながら、狩魔豪がその手を振りかざそうとした、その時。
彼のすぐ横の空間が、歪んだ。
文字通りに、ぐにゃりと。
「なにぃ…?!」
そうしてその歪んだ空間からバチバチと、火の粉が散る。
と同時に、それまで絶対に自分の位置を変えなかった、大吸血鬼が、初めてその場から動いた。
そう、次々に繰り出される攻撃を、避けるために。
「きっ、貴様はぁあ!!」
突如空間を歪めて現れた、その姿に、吸血鬼の誰もが我が目を疑った。
三大吸血鬼のもう一人、赤と銀の仮面を常につけ、勝手気ままに生きることを良しとする、ゴドーその人だったからだ。
吸血鬼同士の争いに、彼の人が自ら手を出すだなんて、そんなことは前代未聞だった。
いつだってノラリクラリと真意を掴ませず、絶対に己の領域には踏み入れさせない。
その行動にどんな規律があるのか、むしろないのかもしれないだとか、そんな噂の絶えない人物だったはずなのに。
「悪いな、千尋と嬢ちゃんからの頼みじゃぁ、動かない理由もなかったんでな」
全力で加勢しに来てやったぜ、と。
不敵な笑みを浮かべながら、容赦なく狩魔豪へと攻撃を繰り出していく。
始祖と呼ばれる吸血鬼同士の対決は、ハッキリ言ってもう僕らがどうこうできる問題じゃない。
その動きを目で追うのが精いっぱいだ。
「うふふっ、魔女一人しか加勢に来ないだなんて、誰が言ったのかしら?」
心底楽しそうに、激しい戦闘を繰り広げる大吸血鬼二人の対決を、悠々と見守る千尋さんは、まさしく大魔女サマだった。
それから、呆気にとられるばかりの僕と御剣を見て、綻びかけていた防御壁を再度構築すると。
「さぁ、私たちは私たちで、ちゃっちゃと雑魚たちを一掃するわよ!」
そう言って、杖に魔力を込めながら、狩魔豪の配下たちに向かって攻撃を開始していく。
僕も御剣も、とにかく色々と考えるのは後回しにして、その後に続いた。
ゴロゴロと、地上での激しい戦闘に呼応するように、稲光が上空を走る。
気がつけば雨の匂いが、一段と濃厚になっていた。