血と愛

□9:奥底にあったもの
2ページ/3ページ



 気がついたら、胸が苦しくて。
 痛くて、痛くて。


 馬鹿野郎。
 そう唸るように、言っていた。


 今さら、そんなことを言うのかよ。
 散々、僕の人生を滅茶苦茶にして、どこまでも傲慢な主として振る舞っておきながら。

 断りもなく、眷属にしておいて。
 どれだけ僕が苦しんでいたか、知っているくせに。

 どれほど慟哭して、どれほど嘆いて、どれほど憎んだか。
 二百回殺したって足らないと思えるくらい、今だって怒りと憎しみで胸が焼け付くようだ。
 決して許せないと、許すものかと、思ってきたんだ。
 なのに。


 愛している、だって?


 なんだそれ。
 なんだそれ。


 ふざけんな、ふざけんな…!


 ならどうして。


 どうしてそう、最初から言わなかったんだよ!


 お前が今日までしてきた僕に対する仕打ちを、忘れたなんて言わせない。
 なのにしたり顔でソレが愛だなんて、言われたところで誰が信じるんだ。
 冗談じゃない。
 愛で全てが丸く治まるなら、この世界に法律も権力もいらないよ。


 今さら、今さらじゃないか。


 あの時。
 きちんと、ちゃんと教えてもらえていたなら。

 私は半分人間の中途半端な吸血鬼で、周囲から疎まれていて。
 独りきりで寂しくて。
 これ以上耐えられないくらい、辛いんだって。

 もう独りきりで生きていきたくないんだって。
 僕と一緒に生きていきたいんだ、って。


 そう、ちゃんと言ってくれたなら。
 そうしたら……そうしたら。


 僕は。




 時間はかかっただろうけど、僕は、きっと決して拒みはしなかった。


 そりゃ最初は怖がって、なかなか決断できなかったかもしれない。
 それでもちゃんと、御剣が僕に『傍に居てほしい』って。
 そう言ってくれたなら。




 ……しょうがないなぁ、って。


 苦笑しながら、それでも。


 うん、いいよ、君の傍にずっと居るよ、って。
 そう、応えていたはずなんだ。




「…っざけんなよ御剣ぃい!!」




 だって、僕は。
 僕こそが、君の傍にずっと居たいと。
 そう、あの頃の僕は確かに、強く思っていたんだ。


 ああ、この期に及んで今さら。
 ホントに今さら、自覚するなんて。




 本物の馬鹿野郎は、僕だ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ