短編倉庫
□遊園地
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通話の切れた携帯電話を呆然と眺めながら、僕は「マジですか…」と呟いて、そのまま佇んだ。
そんな僕の前や後ろを、楽しげな声をあげる子供連れや、恋人同士と思しき男女が通り過ぎていく。
人と人の行き交う音、その合間を縫うように流れる遊園地のテーマソング。
賑やかな音はでも、突然の出来事に襲われた僕の耳には全く流れてこない。
その代わりに。
「成歩堂、真宵君は……なんと?」
低く涼やかな声が、はっと顔を上げさせた。
「あ、ああうん、その……御剣ごめん!」
「ム…?」
視線が合うや、僕はガバッと頭を下げて謝った。
それから、下げたときと同じ勢いで顔を上げれば、怪訝な顔をした相変わらず男前な御剣がいて。
「真宵ちゃん、倉院の用事で来れなくなっちゃったんだって。春美ちゃんだけでもって彼女は思ったらしいんだけど、ほら、春美ちゃんも真宵ちゃんを差し置いて自分が楽しむわけにはいかないって、あの子ホントに真面目だからさ、だからその、ええと…」
「……つまり、アレか。土壇場でのキャンセルが語源になったと言われる、アレなのだな」
「そ、そのようなアレで、す……」
ううう、向けられる視線と言葉が痛いよ真宵ちゃん…!
僕は仕方がないとわかりきっていながら、それでも胸中で彼女の名を呼んだ。
遊園地