短編倉庫

□手紙
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 成歩堂龍一様

 お元気ですか。
 とつぜん転校してしまって、あいさつもできなくて本当にごめん。

 ぼくは、しばらく入院していたけど、今は母さんが悲しまないように、新しい学校に行っています。
 きみや矢張くんのような友だちは、もういないけど……ぼくは、


 元気です、と、書こうとして。


 書けなかった。


 指が震えて、その先の文字も一緒に震える。
 ぱたり、と音がして、便箋の上に零れ落ちた水滴。
 そこで初めて、自分が泣いているという事実に気づいた。


「……ふ…っ!」


 漏れてしまいそうになる嗚咽を、ぎゅっと唇を噛み締めてやり過ごすけれど。
 頬を流れ落ちるものを、止めることはできなかった。


 元気です、なんて。
 書けるわけがなかった。


 強く強く、ペンを握り締めて最後の文字を黒く塗りつぶす。
 ぐしゃぐしゃと、何度も、何度も。

 会いたい。

 会いたい。


 きみに、矢張に、……父さん。


 楽しかった、あの頃。
 満たされていた、あの頃。
 ずっと続くはずだった、あの幸せな時間に。


『かえりたい』


 たったひとつの、口にできないその願いを、文字にすることで吐き出した。
 そのそばから、新しい水滴がそれを滲ませる。
 滲んでいくその様を、しばらく眺めて。

 それから、もう二度と。


 きみに会えないのだと、思った。
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