短編倉庫
□休日シリーズ「朝」
1ページ/2ページ
休日の朝。
私は息を顰める。
ふ……と意識が浮上し、目を開ければそこには。
親友で戦友で、何よりかけがえのない存在が、すぅすぅと穏やかな寝息をたてていた。
私の左側にぴったりと、寄り添うように眠っている。
いつもキリリとした特徴のある眉が、今はゆるく下がっていて、ここが安心できる場所なのだと教えてくれていた。
「……」
言葉も無く、その顔を見つめる朝の数分。
やわらかな陽射しの中で、君の無防備な顔を一番最初に目にできるという幸福を、ただ享受するひと時。
私は右腕をそろりと動かして、彼の眠りを妨げないようにゆっくり、ゆっくりと。
細心の注意を払いながら、そっと。
穏やかな呼吸を繰り返す、その頬に触れる。
私は、この瞬間が。
たまらなく愛しく、そして……怖い。
触れてしまえば、まるで夢のように儚く消え去ってしまいそうで。
けれど触れないままでは、確かな現実としてこの光景を受け止めることができずにいて。
杞憂だと、心のどこかで嗤う声がする。
なのに不安だと、心の奥底からすすり泣く声が木霊する。
休日の朝は、こうして。
隣で眠る成歩堂にその答えを委ねるのだ。
「……ん…?」
いつも、そっと触れるだけにとどめているはずなのに、彼は気配に敏感なのか、数分もしないうちに目を覚ましてしまう。
私はそれが心苦しく、申し訳ないと思うのだが。
「んん……みつるぎ、おはよー」
とろりとした目を数度瞬かせ、舌足らずな声でうっとりと名を呼んでくれるから。
「おはよう」
そう返して、いつものように。
彼の額に口づけた。