ソレが無いのは致命的!
□続:02
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あれからしばらくは、ロクに眠れない日々が続いた。
仕事してる時は、目の前の現実に集中してればいいから、忘れていられるけど。
その日のやるべきことが終わって、一人きりになってしまえば、僕は途端にあの日のことを思い出してしまう。
そうなればもう、とてもじゃないけど冷静になんてなれない。
とんでもない羞恥心と焦燥感と混乱とで、ギャーとかワーとか叫ばないとやってられなかった。
それでもどうにか睡眠をとろうと、無理やり寝れば夢の中にまで御剣が侵入してきて、あの色気ダダ漏れな笑顔を向けてくるもんだから。
僕は汗だくで飛び起きるっていう、色んな意味で泣けそうな毎日を送っていた。
当然、そんな僕の様子に、鋭い真宵ちゃんが気づかないわけもなく。
「なるほど君、大丈夫? ね、ね、もしかして御剣検事とケンカでもしちゃったの??」
なんて問いを投げかけられたんだけど。
まさか、彼女の口からヤツの名前が出てくるなんて、不意打ちもいいとこだったもんだから。
盛大にコーヒーを吹き出すことになって、危うく書類が大惨事になるところだった。
鋭すぎるにも程があるよ、真宵ちゃん……。
ともあれ、いたいけな女の子に「同性の友人からチューされました(二回も)」なんてことは、口が裂けたって言えないし。
僕は乾いた笑いを浮かべながら、「ケンカだったらまだマシだったんだけど…。友情が続くかどうかのギリギリ崖っぷちっていうかね」なんて言って、自分で更に落ち込んだ。
その友情を失いたくなくて、必死に打開策を探した結果がコレって。
どういうことなんだと、神でも仏でもなんでもいいけど、とにかくこんな運命を用意した誰かに向かって、異議を突きつけたい本気で。
「えええ、何それ。どうせなるほど君が間の悪いことしちゃったんでしょー? ちゃんと話して謝らないとダメだよ」
どうして真相を伝えてはいないのに、こうも的確すぎて痛いツッコミを入れてくれるんだ。
霊媒師の卵やってるのは、ダテじゃないってことなのかな。
確かに彼女の言う通りなのは、間違いない。
全面的に僕が悪いんだ、うん。
そもそも御剣の想いを受け入れる気もないくせに、「キスくらいなら」なんて言ってしまったからダメだったんだ。
どう考えても自業自得、後の祭り。
冷静になって振り返れば、「どんだけテンパってたんだ自分…」とか、本気で壁に頭を打ちつけて、床に転がってのた打ち回りたいぐらいなんだけど。
でも、いつまでもこのまま、項垂れているわけにもいかないし。
「ありがとう真宵ちゃん。ちゃんと二人で話し合ってみるよ」
いい加減、そろそろ覚悟を決めるべきだ。
僕は心を鬼にして、ハッキリあいつに言わないといけないんだろう。
どんなに心苦しくても、それが無責任な発言をした人間として、つけるべきケジメだと思うから。
キス込みの友情なんて、成立するわけないんだ。
だからやっぱり、キスするのはやめよう、そう言わないと。
だけどそもそも、事の始まりは御剣が「君とはもう会わない」なんて言い出してきたから、こんな事態になってしまったわけで。
そこのところを、ウマいこと切り抜けないと、きっとそれこそ取り返しのつかないことになりそうだ。
どんなに険しい道でも、譲れないこの一線だけは、守り抜かないと。
やっぱりどう考えても僕は、御剣とずっと、友人で居たいんだから。
会えば楽しいし、どれだけ話していたって飽きないし、本当に大切な存在なんだよ、僕にとっては。
そんな御剣に、もう気軽に話しかけることができなくなる、だなんて。
そんなこと想像しただけで、ウッカリ涙が出てきそうなぐらいには、特別なんだ。
だから。
真宵ちゃんからの「頑張って! また御剣検事に事務所来てもらえるようにしてねッ。高級な手土産待ってるから!!」なんていう、本音の入り混じった応援の声を背に。
僕は数日間をかけて何度も、御剣との話し合いの場をシミュレーションし、考え抜いた。
どう話を切り出すべきか、どう伝えるべきかを一生懸命に。
そうして、それから一週間後。
決戦の日は訪れた。