ソレが無いのは致命的!
□裏:05
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「私は君が好きなのだ、成歩堂。君に、性的な欲求を抱いている」
「せっ、性的って…!」
淡々と事実を述べる私を、信じられないものでも見るかのような目で、見つめてくる成歩堂。
確かに、彼の視点から物事を考えれば、この上もなく信じられない告白だろう。
同性から、性的対象として見られていると、そう面と向かって言われたことになるのだ。
私とて、彼以外の男性から言われたならば、身の毛もよだつとはまさにこのこと、といった境地を味わうに違いない。
見る間にその顔色は、不憫なほど青くなっていく。
それでもこれ以上、自身の心を偽ることはできなかった。
「あの夜は、少々私も飲み過ぎていて……いや、言い訳だな。私がただの変態だという話だ」
結局は、この一言に尽きるのだろう。
どのような言葉を並べ立てたところで、真実は変わらないのだから。
まるで想像もしていなかった事態なのだろう、その混乱ぶりは、ひと目見ればすぐにわかるほど如実だった。
しかし、そこはさすがに恐怖のツッコミ男である。
「御剣お前……ゲイなの?」
すぐさま体勢を立て直し、一番聞き難いだろうところを、的確に突いてきた。
だがこの問いも、自己分析を何度も行ってきた私にとっては、淀みない答えを返すことに支障はない。
「改めて問われると、疑問があるな。これまでの人生で、君以外の男性に、このような想いを抱いたことはない」
本当に不思議なことに、このような感情を他人に持つこと自体、初めてのことなのだ。
それが寄りにも寄って何故、同性の成歩堂だったのか。
いまだによくわからないのだが、けれど同じだけ、心のどこかで納得している自分がいるのだ。
彼以外に、ありえないだろう、と。
「……あ、そ、そう」
だが、それはこちらの勝手な言い分でしかないことも、充分に理解している。
目の前の彼がいま、混乱し顔を赤らめながらも、その表情が硬くなっていることの意味すら。
理解できるからこそ、私は。
「これで理解頂けただろうか。私こそが君との友人関係を、今日限りで終わりにしたいのだ。これ以上は、君も私に近づきたくはないだろう?」
さよならを告げるために、ここに来たのだ。
けれど、そう言えば彼は、驚いたように顔を上げ、焦りと憤りに苛まれた表情で。
立ち上がろうとした私の腕を、ガシッと掴む。
「す、ストーップ! 待てよ、だからなんでそんな結論になるんだよ!!」
これ以外の結論などなかろうに。
必死なその表情に、その少し予想外な態度に、首を傾げたくなったが。
すぐさま、脳内から結論が弾き出された。
「成歩堂、無理をするな。君に性的欲求を抱き、あまつあのような愚行に及んだ私なぞ、捨て置いてくれて構わないのだ。そのように……優しくしないでくれ」
究極的に、とことん胸襟を開いた人間には甘い彼のことだ。
親友関係を続けられない私を、それでも見捨てることができないに違いない。
その優しさこそが、私を苛むものであることに、気づきもしないで。
「違う違うっ、そういうことじゃなくて!」
首をブンブンと振りながらも、しかし言葉は続かない。
ただぎゅうと、半ば抱きつくようにして掴まれた腕に力が込められ、その密着した体に数秒、閉口する。
つい先ほど、私はハッキリと己の抱える浅ましい欲望を、吐露したばかりだというのに。
成歩堂はどこまで無防備なのだろう。
いっそ襲ってくれようかと、危険な思考が過ぎるではないか。
罪作りにも程がある小悪魔ぶりだ。
何だかんだと言いながら、それでも最終的には私を、受け入れなどしないというのに。
その中途半端な態度には、少なくはない苛立ちが募った。
だから。
「成歩堂……口づけをしても、良いだろうか」
「……は?」
彼が戸惑うことを承知で、けれど極めて真面目な顔を繕い言えば。
案の定、その瞳が狼狽に揺れ、途端にその体が離れていく。