とある検事の愛の日記
□とある弁護士の一週間。
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そろそろ御剣のヤツが来そうだな、とは思ったけど、ホントに来たからテンションが一気に下がった。
しかも、手にはまた今回も大きな花束抱えてるし。
その立ち姿がなんとも言えず『似合う』からこそ、余計に忌々しい。
花が似合う男ってどういうことだ。
なのに口を開けば容赦なく嫌味にしか聞こえない言葉が続くし、かと思えば平然と「好きだ」なんて相変わらず気持ち悪いことを言ってくる。
いい加減にしてくれ。
げんなりしながら今回も、いつも通りに全否定させてもらった。
こればかりは譲れないよ、男としてはね。
いままでの傾向からして、どうせ真意からは真逆な方向に解釈されて、更にウンザリさせられるんだろうなぁ、とか覚悟していたんだけど。
なんと、これが最後だとか言い出した。
びっくりした。
本当にびっくりしたよ、思わず二回言っちゃうぐらいだ。
なんか変な食べ物でも口にしたのかと、心配にもなったけど、どうやら杞憂だった。
むしろ、僕にとっては願ったり叶ったりな展開で。
ぶっちゃけ夢でも見てるんじゃないのかと、思わず疑問を抱いたくらい。
御剣がマトモになってる……こんな嬉しいことはなかった。
基本的に親友としての御剣という男は、誰よりも信頼のおける人間で、僕にとってこの上もなく貴重な存在なわけで。
アレな発言さえしてこなければ、御剣とは一生に渡る友人関係を築いていきたいと、そんな風に思えるくらいなんだから。
こう言っちゃぁ大袈裟かもしれないけど、危うく感激で涙出そうだったよ。
お詫びの品だと手渡された花束も、今までだったら「どこに飾れっていうんだ」とか悪態吐きながら手にしてたのに、今日は満面の笑みで受け取れる。
我ながら現金だなぁと思わなくもないけど、これが偽らざる本音ってやつだった。
そういうことなら、ようやく僕は素直な気持ちで御剣と付き合っていける。
今度のイワユル『合コン』だって、御剣が参加すればどんだけ楽しいものになるだろう。
ホントは『異性との出会い』なんて今の僕には必要ないと思ってて、じゃぁなんで参加承諾したのかと聞かれれば、他でもない御剣に「いい加減、現実を見ろ!」と訴えたかったからだ。
それ以外に目的はなく、それが達成されてしまった今は、御剣が参加しないなら僕も断って、むしろ二人できちんと『親友として』飲みたいなぁ、とか。
そんなことをこっそりと思いながら、「お前は参加しないの?」と聞いたんだけど。
残念ながら忙しくて無理らしい。
それどころか、どうやら来年早々には海外に研修だってさ。
まぁ、御剣にとってはとても大事なことなんだろうし、僕としても嬉しそうに話す彼を見れて、若干の残念さはあっても異論はない。
よかったな、頑張って。
そんなことを笑顔で伝えれば、御剣も生真面目な顔して頷いて、それからホントにそれ以上のことはなく。
むしろ素っ気ないくらいの態度で、事務所を去って行った。
その立ち去る男の毅然とした背中を見つめて、僕は本当にしみじみと、ようやく御剣が正気を取り戻してくれたのだと、心底から理解できた。
今までのトラウマがひどかったんだろう、あいつの言葉を心のどこかで疑っている自分が居たらしい。
私は紳士なので嫌がることはしない、とか言いながら、毎日のように電話してきたりメールしてきたり抱きついてきたりあげくキスしようとしてきたり……。
一連の嫌がらせ以外のナニモノでもない被害を、一身に受けてきた僕だ。
完全にトラウマだったんだな、うん。
花束を抱えて、こんなにも心安らかになれた日なんて初めてだ。
窓から外を見れば、雨はすっかりあがっているようで、まるで僕の心を反映したかのようだな、なんて。
そんな浮かれたことを思ったりした。