とある検事の愛の日記

□11月30日、晴れ。
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 裁判所での奇跡の邂逅から、既に二週間以上も経過している。
 相変わらず私の携帯は彼からの着信も告げず、沈黙したままだ。

 私は毎日でも彼に会いたいと思うのだが。
 成歩堂は何故にこうもツレナイ態度を取れるのだろうか。
 ある意味、世にはびこる知能犯が起こす罪よりも、彼の思惑は大いに謎だ。


 世間的にも忙しい職種だと見なされる私たちだ、同棲でもしていない限り毎日会うなど到底無理な話。
 そのようなことは誰よりも私自身が承知している。
 だからこそ彼への想いを告げると同時に、同棲したいとの要望も伝えた。

 無論、奥手な彼からは。

「馬鹿は死んでも治らないってホントだったんだな。ちなみに僕はお前と同棲なんてそれこそ死んでも嫌だ」

 などと、笑顔で断固拒否されてしまったが。

 うぅム、今までの言動から総合してロジックを組み立てれば、成歩堂が私を愛していることは間違いない。
 にも関わらず、彼はこちらが歩み寄ろうとすればするほど、微妙な顔をして遠ざかるのは何故なのだろうか。

 めくるめく同棲の申し出は拒否されてしまったため、ならばと会えない代わりに電話を毎日するよう心掛けたのだが。
 一週間もしないうちに、本気でキレられてしまった。

 ……あの時のことを思い出しても、全身が凍えるようだ。

 電話もメールも着信拒否をされ、あげく顔を合わせてもニッコリ笑顔でありながら、一言も口を利いてくれなかった。
 その顔には笑みが湛えられているというのに、ただの一言も、だ。

 最初は一週間ぶりに会えた嬉しさと、しかし携帯の着信拒否をされている事実に理不尽な憤りを覚え。

「成歩堂! ようやく会えたなっ、ヒドイではないか、着信拒否とはどういうことかね?!」

 と詰め寄ったのだが。
 反応は前述のとおり、にこりと笑顔でありながら、その唇が開くことはなかった。
 詰るように何度か話しかけるも、まるで暖簾に腕押しのごとく。

「な、成歩堂…?」

 と、戸惑った声を出してもその唇からは私の名前どころか、挨拶の言葉すら紡がれない。
 いよいよゾクリと背筋が凍り、その顔をまじまじと見つめれば……そこにはどこまでも、究極的に冴え冴えとした瞳が、こちらを見ていて。

 まさしく、彼の湛える黒い怒りが、この心臓を貫いた瞬間だった。
 それこそ、視線に人間を殺す威力があったならば、明らかに私はこの世とおさらばしていたことだろう。
 世間を騒がせる凶悪犯と、これまで数えきれないほど相対し、丁々発止とやり合ってきた私のこの心臓が戦慄で凍りつくほどの、それはそれはドス黒い視線であった……。

 彼を本気で怒らせてはいけない、それはこの身をもって痛いほど思い知っているのだが、いかんせんどうにも私は彼の堪忍袋の緒というものを、把握できていないようだ。
 私としては、毎日会えずに彼こそが寂しがっているだろうと。
 多忙であっても最大限「この時間であれば」と、彼を想って電話をしていたつもりだったのだが。

 すぐにその場で平身低頭、謝り倒して成歩堂に怒りを解いてもらい。
 正直なところさっぱり私の何が悪かったのかわからなかったので、恥を忍びつつ理由を問えば。


「電話がウザかったから」


 ……これである。
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