とある検事の愛の日記

□とある弁護士の嘆き。
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 それからというもの。
 僕は御剣からの熱視線をかわしにかわし、全力で『僕たち親友だよな!』オーラを放ちまくって頑張ったよ。

 飲みに行こうと誘われれば、即答で「じゃぁ矢張も誘おう! 絶対誘おう! あいつがダメならまた今度ってことでッ」とか言って。
 絶対に二人きりにはならないように、気をつけたし。
 食事を一緒にと言われれば、「ちょうど真宵ちゃんと春美ちゃんにご飯オゴらされそうになってたんだ助かるよ…!」とか言って。
 強引に『みんなで一緒に』状態にした。

 ここまですればいい加減、バカでもわかるだろう。
 というか察しろよ。

 そんな僕の切なる願いもむなしく。
 ついに焦れた御剣から「好きだ」と直球で言われた時には、あやうく泣きそうになったもんだ。
 モチロン即座に「現状維持(親友状態)を希望する!」って訴えたのに。
 相変わらず偉そうな男はフッと笑って。

「照れ屋なのだな、君の気持は既に痛いほど理解できている。今さら隠すことはないのだぞ。しかしそのようないじらしい君もまた魅力的だなッ、全力で誘惑させて頂こう!」

 とかさ……気色悪いことをウットリ顔で言われてごらんよ。
 あの時、僕はこの人生で初めてホラーってやつを身をもって知ったね。
 言いようのない寒気が背筋から全身に広がって、とんでもなくぞわっぞわしたよ。
 あの感覚はもう二度と思い出したくない。


 そんなこんなな経緯から、最近の僕は御剣の姿がちょっとでも視界に入ると、すぐさま体が反応し、警戒態勢をとりつつ可及的速やかに離れるようにしている。
 それでも仕事柄、どうしても言葉を交わさなきゃならない状況になったりはするし、真宵ちゃんや矢張が面白がってわざと大声で呼ぶ時もあるわけだけど。

 というか僕はね、御剣が変態行動さえ起こしてこなけりゃ、きちんと親友として付き合っていきたいと思っているんだ。
 避けたくて避けてるわけじゃぁないんだよ、ということだけは声を大にして言い張りたい。
 とりあえず誰でもいいから誰か、御剣という名のドリーマーに現実を教えてあげてくれ。

 僕はれっきとした男で、現実主義者で毒舌で淡白な人間だと。
 いじらしくも可愛らしくもないし、ましてやお前と同じ男で結婚はもとより恋人なんかになるはずがないとッ。
 というか僕はホモでもないしなる気もないし、ましてやお前の嫁になる気もさらっさらない!!

 つーか僕にだって立派な男の証がついてんだよっ。
 そこそこ大きなやわらかおっぱいが好きなんだよっっ。
 なにが悲しくて僕よりずっと体格も容姿もいいガチムチな同性とラブな関係築かなきゃなんないんだよ阿保かぁあああ!!!!


 ……はっ、いけないいけない、最近の僕は思考がうらぶれている。
 この調子だと近いうちに、仕事にまで支障をきたしかねない、忌々しき事態だ。
 気を引き締めていかないと!
 と、決意も新たに顔を上げたところで。


「どうした成歩堂、このようなところで百面相なぞをして」


 というどこか陶然と響く声と一緒に、耳元に生温かい息が吹きかけられてギャーッと飛び上がった。


「いちいち近いんだよこの変態がぁあ!!」


 慣れって恐ろしいね。
 そろそろ条件反射な勢いで、僕は常に持ち歩くようになった(なってしまった)重い重い六法全書を、今日も投げつけた。




***


ということで、後半は11月12日の裏側でした(笑)。
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