とある検事の愛の日記

□10月17日、晴れ。
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 仕事の合間に時間ができたため、成歩堂法律事務所に向かい、そこの所長にして幼馴染でもある成歩堂に、三回目の花束贈呈と通算十二回目の告白をした。

 彼は引きつった顔を隠しもせずに「花束に罪は無いから受け取っておくけど、お前の気持ちに応える気はさらっさら、さらっっさら無いから!」と、相変わらず照れ隠しにそのようなことを言う。
 そう言いつつも花束はしっかりと受け取り、不機嫌と困惑の入り混じった顔をわざわざ作って「こんなんどこに飾れっていうんだよ…」などとブツクサ呟く。

 その姿たるや、猛烈にトンデモなく可愛いな君は本当にどうしてくれようか! と言いたくなるほどに可愛い。

 思わずその耳に口づけたくなったが、最近は少しでもこちらが動くと容赦なく六法全書が飛んでくるようになったので我慢している。
 照れ屋もここまでくると天然記念物ものだぞ成歩堂、私の類稀なる運動神経を持ってすればこそ難なく避けられるものではあるが。
 打ち所が悪ければ救急車騒ぎだ、何より彼は誰より繊細で傷つきやすい面があるため、私が怪我でもしようものなら泣き崩れるに違いない。

 ム、愛しい成歩堂が私のために涙を流す……ハッ、いかんいかん。
 妙な誘惑に流されウッカリと六法全書に自ら頭をぶつけるところだった。

 さすがに命は惜しい。
 死んでしまっては成歩堂に会えないからな。


 ああしかし抱えきれない花束に埋もれたその顔もまた可愛い。
 携帯カメラで撮影しようとしたのだが「撮ったら一ヶ月クチきいてやらないからな」と、本気と書いてマジと読む目つきで言われたため断念した。
 私の成歩堂は本当に照れ屋がすぎると思う。
 もう少しこう、素直になってくれても良いのだぞと、手を変え品を変えてアプローチしているのだが、どうにも逆効果なのは何故だ。


 君はつくづく難解で気難しいな。
 ウッカリ口が滑ってしまい、しまったと思ったがもう遅かった。
 にっこり笑った成歩堂は「気難しくて悪かったな。無理して来なくていいよお疲れサマ僕もこれからお客さんと面談だからああ忙しい忙しい!」と、ほぼ棒読みの息継ぎなしでまくしたて、事務所から私を追い出した。


 またも失敗してしまったらしい。
 安易に不興を買う言葉を呟いてしまった私は、まだまだ詰めが甘いようだ。
 仕方がない、恥を忍んで正直に言えば、なにせ恋愛ごとには初心者と呼ばれても差し支えない身なのである。

 成歩堂のような究極の照れ屋を相手に、素直な甘いやり取りをしようというからには、もっと努力が必要なのだろう。
 精進せねばならんな。
 なにせ成歩堂はとにかく恥ずかしがり屋で頑ななのだ、私がリードしてやらねば。

 ムぅ、これがハードルは高ければ高いほど燃える、というやつなのだな。
 待っていろ、成歩堂!


 ……と、固く拳を握りしめたところで、後ろから「事務所の前で暑苦しい決意表明してんじゃねぇええ!!」という声と共に六法全書が今日も飛んできた。
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