青い鳥
□1.満ちる日々
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小さい頃の夢を見た。
小さな僕は、小さな御剣に向かって「大好きだよ!」なんて無邪気に言って。
ふわりと笑った花のように可憐な御剣が、頬を染めながら「僕もだ」なんて返してくれて……夢心地っていう表現がぴったりだった、その夢の中。
「君が好きだ」
なのに続くはずだったせっかくの可愛い御剣からの告白は、どういうことか低い成人男性の声にとって変わり、気がつけばそこには可愛かった御剣返せ! とか叫びたくなるくらいに厳つい顔で佇む御剣が居たもんだから。
びっくりして飛び起きた、僕は。
寝ぼけたまんまついさっき見た夢を反芻し、それから。
「ぅええぇえええええ??!!」
かなり間抜けな声を出した、休日の朝。
いやいやいや、ないだろ無い!
だってあいつ男だし!!
と、誰に見られてるわけでもないのに首をぶんぶん振って、だけど少し下を向けば元気な息子とご対面。
いやいやいやいやいや、だって僕も男だし!
寝起きはしょーがないんだっ、男の生理現証だから、これにはなんの他意もない!!
多分…!
多分ってなんだ、絶対だよ絶対っっ!!
そんな盛大な一人ツッコミを繰り広げ、それでもふとした瞬間に、可愛かった御剣の顔とか声とか思い出して。
それから……あくまで夢の中なんだけど、好きだと言ってきた立派な成人男性となった男の、ほんのり朱色に染まった頬とか目元とか思い出して。
体がだんだん、じわじわっと……熱くなる、とか。
「…わぁああ! 嘘だッ」
叫んで、とにかく僕は朝からテレビの前に座って、矢張が無理やり置いてった「超レアもの無修正版だぜぇ!」なAVを再生した。
結果。
「よ、良かった……うん、ホント」
ちゃんと勃ったし、抜けた。
過去のイロイロな経験から恋愛ごとには冷めてはいるけど、やっぱり女性の裸を目にすれば、男としての本能はきちんと脳内命令を下すようにできている。
半端ない脱力感と安堵感に襲われて、ついでに休日の朝っぱらからナニやってる自分に情けなさが募って、かなり泣きたくなったけど。
「あー……矢張に感謝」
救われました、マジで。
あいつの代理として、朝日の中で見るにはいかがわし過ぎるAVのパッケージに両手を合わせておく。
今の気分だったら、もしも部屋に神棚があればそこに飾っていたかもしれない。
うん、やっぱりそう、僕は別に御剣を「そういう意味で好き」なんじゃなくて。
そんなふうに勘違いできちゃうくらいには、あいつが「特別好き」ってだけの話なんだ。
それはだって、そうだろう。
小学生のあの時、御剣と矢張という親友が僕を救ってくれたからこそ、今の僕があるわけだから。
あの頃、人生を語れるだけの経験があるわけもないくせに、それでも御剣以上に好きになれる人間なんていないんじゃないか、なんて思えるくらいには。
彼を信頼し、尊敬し、憧れていた。
その気持ちをきちんと振り返って、言い表すとするなら。
「……ん、と。崇拝…? ……や、敬愛…そう、そうそう敬愛だ!」
ぴったりな表現を見つけて、ようやく人心地つくことができた。
ふへへ、と誰も見ていないのをいいことに、僕は随分とだらしない笑みを唇から零してしまう。
いいじゃん、敬愛。
一人うんうんと頷いて、ああ、早く御剣に会いたいなぁと思った。