血と愛
□6:夢と魔女っ娘と元弟子
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*6:夢と魔女っ娘と元弟子*
繰り返し、ごめんと謝る。
誰に対してなのか、何に対してなのか、全くわからないのに。
ただ、どうしても言わなければならないという、焦燥にも似た何かに急き立てられて。
ひたすらに謝る。
涙でぐしゃぐしゃに歪んだ視界の向こう側で、謝られた『きみ』は首を振って笑うから。
胸が痛くて痛くて、申し訳なくて。
だけどどうしても……愛しくて。
そうして、僕は目を覚ます。
「……また、あの夢…」
掠れた声が響いた。
それが薄暗い部屋の壁から跳ね返って耳に入ることで、僕は自分がようやく呻くように呟いていたことを知る。
何度目になるかもわからない、奇妙な夢は、僕をいつも憂鬱にさせるものだ。
どうして『彼』は謝っているんだろう、どうしてあんなに悲しくて辛いんだろう。
平凡な人間として生活していた頃から、繰り返し見てきた、夢。
僕の過去にはない、『誰か』の記憶を繰り返し夢に見ている、そんな感覚だった。
そう、ごめんと繰り返しているのは、僕じゃない誰かだ。
そうして、謝られている方も、決して僕ではない。
生まれてこの方、あんな想いを抱いたことはないし、あんな風に誰かに向けて謝ったこともない。
絶対に無いと言い切れる。
あれは『僕の記憶じゃない誰かのもの』だ。
なのに、両者の気持ちが、痛いほどに心に迫る。
互いが互いを、とても、この上もなく大切で愛しく想い合っているのに。
抗えない別離の足音を、彼らはただ身を寄せ合って聞いていた。
それはまるで、どうしようもない悲しい物語を、どうすることもできずにひたすら見せられているようで、僕はたまらなく切なくなる。
だから、起き上がってしばらくは、涙が止めどなく溢れてくることにも、もう慣れてしまった。
繰り返した謝罪の言葉。
それしか知らないかのように、ただひたすら謝っていた『彼』は、でも。
その胸中に、たったひとつの願いだけを、抱いていた。
「……きみにまた、逢いたい」
ぽつりと零れ落ちたその願いは、隣に横たわった男の寝顔に堕ちて、滲んだ。