前途多難部屋

□変か恋かの些細な差異。
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 前途多難、それは覚悟の上だった。
 なんたって僕への気持ちを無自覚なまま、高鳴る鼓動を心因性の病気だと勘違いして、悲壮な顔しながら相談しにきちゃう、とてつもなく鈍感な御剣が相手だ。

「お付き合いしていこうか、僕たち」

 そう言って、その頬にキスしたのは、まぁ。
 確かに相手が御剣ということを鑑みて軽率だったのかもしれない。


「な、ななな、何をするのだ…!」

 なんて、頬を押さえて後退りする御剣は、顔がこれ以上ないってくらい赤くなってて、もうとんでもなく可愛かった。
 まともな恋愛経験なんてないんだろうなぁと、改めて聞かなくたってわかるくらいに鈍感&天然な御剣が、この展開に狼狽するだろうことは予想できていたからこそ、僕はくすりと笑う。
 笑って、「何ってキスだよ。恋人同士のキス……次は唇にしようか?」なんて宣言する余裕だって、この時にはあった。
 あったんだ……なのに。


 やっぱりどこまでも御剣は、御剣だった。


「く、くくくく唇だと?! ……な、なんという……」

 赤かった顔が、みるみる蒼白になっていって、眉間にはもの凄く深い、深い皺が刻まれていく。
 え、なんでそんな反応?
 そう思った時には既に遅かった。

 わなわなと震えたその体からは、逆にこちらが後退りしたくなるほどの怒りオーラが滲み出て。
 キッと顔を上げた彼は、それこそ般若のような表情で僕を見た。

「君がっ、君がそのような、婚前交渉を持とうとするような男だったとは。なんという破廉恥なっ、見損なったぞ! 成歩堂!!」

 泣く子も黙らせるほどの勢いでもって、怒鳴られた僕は。
 やっぱりあまりにもその思考回路が突飛すぎて、目をぱちくりさせて呆然と固まってしまい。

「今日のところは帰らせていただく!」

 バタン、とけたたましく事務所の扉を鳴らせて去っていく、その背中をただ見送ることしかできなかった。


 ……。

 …………。


 えぇえええええ。


 婚前交渉って。
 破廉恥って。


 ……えぇええええぇえええ??!!


 そんな呻きに近いツッコミが、脳内をグルグル廻ったのは言うまでもない。




 それからの約四ヶ月。
 思い込みが激しくて頑なな御剣の心を、どうにかこうにか解すことに成功するまでに、僕のそれはそれはもう涙ぐましい努力があったことも、きちんと追記しておこう。


 そう、これは。

 前途多難なんてものじゃない。
 エベレスト登頂級に大変な恋に挑む、僕と、そして彼の話だ。







変か恋かの些細な差異。
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