血と愛
□1:月夜と色のない花
3ページ/4ページ
吸血鬼は昼間に寝て、夜に活動する。
これは正解。
吸血鬼は太陽の光を浴びれば灰になる。
これも正解。
吸血鬼はニンニクと聖水が苦手。
これはただの迷信……つーか何でニンニク?
吸血鬼に血を吸われた人間は、死霊となって吸血鬼の言いなりになり、かつては同胞だった人間を襲う。
これもつくづく的外れな認識だと思う。
死霊になんてならない、ただ死ぬだけだ。
と言っても、致死量を吸われればの話で、これも語弊があるかもしれない。
基本的に奴らはよっぽどの事情がない限り、獲物が死ぬまで吸血することはない……衝撃の真実だけど、これは本当。
そして吸われた側の人間が、人間以外のバケモノになってしまうことも実は、ない。
まぁ、かといって蚊に刺された程度の量でもないから、しばらくはまともな生活なんてできないくらい、衰弱はしてしまうけど。
ただ、その不幸にも獲物とされてしまった人間を、その周囲の村や町といった人間たちが、吸血鬼への畏怖と恐怖と侮蔑から、被害者でしかない哀れな人間を葬るだけだ。
いずれは死霊と化して、この村に恐怖と混乱をもたらすに違いない、とかなんとか言いながら。
自分たちの中にある差別意識と残忍さを正当化する。
吸血鬼にとって人間なんてただの餌で、それ以外のナニモノでもない。
だから獲物が同じ人間から殺されたところで、ただの内輪揉めでしかないんだろう。
諸悪の根源だという自覚なんてあるわけもない。
何故なら真実を見ようともしない人間が、愚かなだけだからだ。
それから純潔の乙女を好むっていうのも、ただの好色家が言いふらした根も葉もない噂だ。
いや、もしかしたらそういうヤツも居るのかもしれないけど、僕は今までお目にかかったことはない。
そもそも純潔かどうかなんて、どうやってわかれというんだろう。
年齢で区別するというのなら、風俗が乱れまくった近代では、随分とロリータ趣味に走らなければならなくなる。
ともあれ、吸血鬼に関する世の中の認識というやつには、ありとあらゆる鼻で笑いたくなるぐらいの嘘と。
それから、少しの真実があるわけだけど。
吸血鬼はある一定の年齢に達すると、そこから一切の成長はなく老いもしない。
これは僕が身をもって知った、紛れもない真実だ。