REBORN!

□懐かしい記憶
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「先生来たらヤバいし、早くやっちまおうぜ!」
「埋めちゃえ埋めちゃえ」

太陽に光を反射させ、茶色の土を纏うシャベルを動かす。
頭や顔面、いや、全身に降りかかる冷たい感触。
耳に入ってくる子供たちの笑い声を、どことなく他人事のような面持ちで自分の足元を見つめ続けていた。
ああ、なんでこうなるんだろう。
俺は他のみんなと何が違って、何を恐れられて、どうして仲間に入れてもらえないんだろう。
ジョットはそんなことを繰り返し考えていた。

「なー、もう手疲れたし、ほっとこーぜ」

ガシャン、という音と共に、ジョットのすぐわきにシャベルが投げ落とされる。
今日はもう終わったらしい。
小さく息をついて、ふ、と上を見上げると、子供たちの声が聞こえなくなっていた。
この短時間にもう校舎へ逃げ込んだのだろうか。

「・・・」

立ち上がって、全身の泥を軽く叩き落とす。
と、よく聞けば子供たちの声が聞こえた。
声というには苦しそうな、うめき声のような声だ。

「おい」

太陽がまぶしくて、目を細める。
その光を遮る小さな影の存在に気付いた。
そして同時に、自分に差し出された手と、自分にかけられた声。
まぶしさに目が慣れ、その影の赤い光に気付いた。

「手、早く掴まれ」

アルトの声に急かされて、慌てて手を差し出す。
だが、手が酷く泥に汚れているのに気付いて、すぐに引いてしまう。
そんなことは知らないとばかりに、赤い少年は手を掴んで、ジョットを穴から引っ張り上げた。

「うう、悪かったよG・・ちょっとふざけただけじゃんか・・・」
「複数でよってたかってボンボンいじめて、挙句に言い訳か」

Gと呼ばれた少年は、地面に膝を突いている少年たちを見下ろした。
頬や頭を抑えてなみだ目になっているあたり、どうやら自分はこの少年に助けられたらしいと気付く。
ぐちぐちと言い訳を続ける子供たちをギロリ、と睨みつけると、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出していった。
ジョットは、助けてもらった礼を言おうと口を開いた、その時。

ガツン!

「い゙っ・・・!」

頭に鈍痛。
拳を握った少年を見て、自分が殴られたことを知る。
ずきずきと痛む頭を抑えながら目を白黒させて少年を見上げた。

「お前も男のくせにぐじぐじと逃げてんじゃねぇ!」

赤く輝く髪と瞳、そして綺麗な顔を蝕む紅いタトゥー。
自分にまっすぐ向けられた目線と言葉、そしてその顔に、ジョットはしばし見惚れた。

「・・・キレイだ」

思わず呟いた言葉は、あまりに小さくてGという少年の耳には届かなかったらしい。
Gはすぐにジョットから目を逸らし、穴の中にあるシャベルを拾い上げ、石造りの水道に立てかける。
泥で汚れた手を水で洗い流すのを見て、ジョットも慌ててGの元へ走った。

「医務室行って来いよ。代えの服くらい置いてあるだろ」

その言葉に、ジョットは気まずそうに黙った。
ジョットの家は上流階級で、教師たちも少し距離を置いているのだ。
それゆえに、学校では友人はおろか、今回のようなことを担任に話すことも出来ない。
面倒ごとには関わりたくないのだ。

「・・・お前、名前なんてったっけ」

水に光が反射して、キラキラと光るGの白い手を眺めていたジョットは、はじかれたようにGを見た。
蛇口に目線を落とし、伏せ目がちの横顔はイヤにキレイだ。
ジョットの視線に気付いて、Gも顔を上げる。

「なんだよ、そんなに驚くことか?」
「・・・俺は今驚いた顔をしてるか?」
「は?」

学校でも家でも、ジョットは表情が少ないと言われ続けてきた。
自分でもきっとそうなのだろうと思い、今どんな表情をしているかなんて知ろうともしなかったのだ。

「さっきはすげー泣きそうな顔してたけどな」

だから思わず助けちまった、そう言ってGはジョットに背を向けた。
その背中を小走りで追いかけ、少し大きな声で言った。

「お、俺はジョットだ」

ピタリと足を止めて、Gはゆっくりこちらを振り向いた。

「そうか、よろしくなジョット」

その笑顔に、全身が沸き立つような熱さを感じた。
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