綱獄

□始めまして
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通された部屋は、俺が想像していたものとは全く違っていた。
清潔感ある畳の部屋で、民宿というには少々殺風景だが、あやしい雰囲気を思い描いていた俺はほっと息をつく。
銀髪美人は俺を部屋に通して、すぐに部屋を出ようとする。

「少々お待ちください。すぐに誰かお相手できる女を・・・」

軽く頭を下げて背を向ける姿に、慌てて手を掴んだ。
思わず掴んでしまったせいで何を言おうか頭が混乱し、更に細くてさらさらとした手首にめまいがしそう。

「あ、えと・・・」

きょとんとした表情をし、出会って初めて人間らしい反応をした。
じっと見つめてくる瞳に頬が熱くなる。
掴んでいた手をすぐに離して小さく謝る。

「ここの女はお気に召しませんか?」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」

とはいったものの、確かにああいうけばけばしいタイプは苦手だ。

「なんていうか、その、」

背を向けて振り返る形だったのを、きっちりと俺に向き直った。
話を聞く体勢になってくれたのはいいんだけど、そうまっすぐ見つめられると恥ずかしい。

「俺、君と話してみたいな・・なんて」

目を見開いて、酷く驚いているようだ。
もしかしたら迷惑だったのかな?
この店の用心棒含め、色んな仕事をこなしているようだから、ひょっとしたらそんな時間取れないのかもしれない。
仕事が出来るタイプって感じだもんな。

「もしかして、忙しい?」

わがままを言ったかもしれない。
もしも変なやつだと思われたらどうしよう、恥ずかしいどころじゃない。
この人に嫌われたら俺生きていけない・・・。
・・・いやいや、なんでだよ、つい数分前に会ったばかりじゃないか。

「い、いえ・・俺なんかでよければ・・・是非話し相手に」

少し目を逸らして恥ずかしそうに頬を色づかせる姿はすごく可愛い。
・・・俺?って言った?
まぁ最近は自分を俺っていう女の人もいるっていうし・・・。

「何か飲み物を用意させます」

ぺこりと頭を下げて、いそいそと部屋から出て行った。
ソレを見届けて、俺は開かれた窓の前に座り、腕の上に顎を乗せて通りを見渡す。
着物を着た人が複数歩いていて、中にはスーツを着た、見た感じ仕事帰りですっていう男性もいる。
ていうか思いっきりホストって感じ。

「・・・そういえば、名前も聞いてないや」

リボーンがどういうつもりでここに俺を連れてきたのかは分からないけど、初対面でごたごたしちゃったし。
まずは自己紹介からだな。
そう考えるだけで、心臓が耳に移動したんじゃないかってくらいドキドキする。
彼女の姿を思い浮かべて、柔らかそうな銀色の髪に触ってみたいと考えた。

「いやいや、俺節操無さすぎだってソレ!」

自分の考えに一人で突っ込みを入れ、シーンとした空気に黙り込んだ。
それにしても、リボーンはどういうつもりで俺をここに連れて来たんだろう。
とか考えていても、いくつか心当たりはある。
この年になって、ボンゴレという大きな組織のボスを継いで。
それなのに未だに女っ気のない俺に少しは経験を積めということだろうか。

「重鎮の人たちに結婚も急かされてるしなー・・・」

中学の時、初恋の相手だった女の子は今でもお友達のままだ。
俺を十年間慕ってきてくれた女の子も、どうしても恋愛対象として見れない。

「・・・俺ってこの年で不能なのかな」

ありえないとは分かっていても、恋愛偏差値0の現状に何か理由を付けたくなる。
それともう一つ。
ボンゴレボスを守護する六人の守護者のことだ。
一人だけ欠番で、未だに五人しかいないこともボンゴレ内でいい印象ではない。
ここの用心棒をしているだけあって、腕はかなり立つようだった。
もしかして、他のみんなと同じようになし崩しにファミリーにする気なんじゃ・・・。
そこまで考えて、引き戸が静かな音を立てた。

「失礼します」

手に徳利と猪口をいくつか持って入って来た。
俺お酒はあんまり得意じゃないんだけど・・・。

「獄寺といいます。ボンゴレ十代目」

盆を置いて恭しく礼をするのに慌てて俺も頭を下げた。

「う、うん・・よろしくね獄寺君・・いや、獄寺さん?」
「呼びやすい呼び方でお呼びください」

ニッコリと笑う獄寺君にぼーっと見惚れ、返事をしない俺を不審に思った獄寺君が首をかしげる。
よく見れば、他の女の人と比べて獄寺君の着物は派手な装飾がされていない。
もしかしてそんなに地位が高くないんだろうか?
見た感じでは獄寺君が指揮を取っているように見えたし、こんなに美人なのに。

「あ・・俺は沢田綱吉・・・みんなはツナって呼んでるんだ」
「俺なんかが十代目をお名前で呼ぶなんて名誉、いただけるはずがありません」

俯いて即答した獄寺君に、俺はなんだか少しがっかりしたような気分になった。
同年代なんだし、もっと気を許してくれてもいいのに。
友達に、なれたらいいのになぁ・・・。
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