綱獄

□気付けよ!
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いつもクールで表情を崩さない獄寺君は、実はとても猫好きだ。
というか動物全般が大好きだ。
最近は仕事ばかりで俺の顔を見たらまず書類確認。
せっかく付き合ってるのにそんな調子の獄寺君になんらかのアクションを起こしてもらいたくて、俺はあるアイデアを考えた。

「失礼します」

これなら完璧だ、と思いながらほくそえんでいたとき、待ち人がノックのあと入ってきた。
わくわくしながら机に座り、書類を手に近づく獄寺君を笑顔で迎える。

「十代目、先方から次の会合の日取りについて都合のいい日を教えてほしいとのことです」

笑顔に笑顔で返してくれた獄寺君は特になんの変化もない。
あれ?おかしいな、と思うと、頭の上の三角がぴくりと連動して動いた。
にっこりとした笑顔はすごく可愛いんだけど、もしかしてシカト?相手にしないってこと?

「うん・・・じゃぁ来週の木曜日なんてどうかな・・・」
「はい、ではそのようにお伝えしますね」

軽く礼をして立ち去ろうとする獄寺君に慌てて立ち上がる。
目の前まで小走りで移動し、腕を掴む。
獄寺君の方が身長ちょっと高いんだから気付くだろ。
だが、当人はきょとんとした顔でいつも通り、なにか?と尋ねた。

「え、あれ?」

これはマジで最後までスルーする気か。
馬鹿馬鹿しいことしてないで仕事しろっていう無言の訴えか。

「あれ、十代目・・・」

何かに気付いたように獄寺君が俺の顔を覗き込んだ。
やっと諦めて突っ込んでくれる気になったのかな。
端正な顔を少し綻ばせて、俺の首元に両手を伸ばした。

「襟が少し折れていますよ?」

そんな細かいことどうでもいいだろ!
もっとこう、明確な違いがあるだろうが!
頑なな様子に表情が引きつり、それに反応した俺の髪と同じ色の物体が訝しげに動いた。
今更だが、俺の違いというのはわかる人もいるだろう。
獄寺君の大好きな猫の耳をつけてみました。

「・・・ありがと」

いえ、と言って少し肩を竦め、笑顔を見せてくれる。
すっごく可愛いんだけどね、納得いかないよね。

「獄寺君、なんかこう、感想言って欲しいんだけど」
「はい?」

首をかくんとかしげて、なおもそれに触れようとしない。
これってもしかして逆に怒ってるのかな。
あれ心なしか笑顔が怖くなってきた。
もしかしてこれものすごく怒ってるんじゃないのかな。
どうしよう。

「ご、獄寺君、その・・・」

怒られる前に謝ってしまおうか。
俺にはいつも優しい菩薩のような天女のような女神のような(以下略)獄寺君だけど、怒るとすごく怖い。
山本や骸はいつもあの冷たい目に睨まれているのだから頭が下がる。

「あれ?十代目・・・」

すでに頭を下げる前段階に入っていた俺は全身がびくりと揺れた。
恐る恐る顔を上げると、獄寺君が少し上の方を見ている。
ついに怒られるのか。

「なんかいつもと違いますよね?」
「そ、そうかな」

びくびくしてはいるものの、俺の超直感という便利なものは獄寺君から怒りを感じ取っていない。
むしろ純粋な疑問、違和感を感じる。
そしてかみ合わない空気も感じ始めた。

「別にいつも通りだよ」

嫌な予感がひしひしとするが、中学時代の彼を知っている俺としてはありえない話ではないと思っている。

「でもなんかいつもと雰囲気が違うような・・・」

笑顔ではなく、困惑の表情を浮かべる獄寺君。
白い指を顎に当てて考え込む。

「あ、髪切りました?」
「切ってないよ!知ってるでしょ!」
「似合ってますよ?」
「聞けば!?」

ああ懐かしいなこの感じ。
昔はいっつもこういう感じで獄寺君に一方的に振り回されていた。
思い込むと一直線な彼は俺が何を言っても聞こうとはしなかった。

「気付いてくれないと俺一人でバカみたいじゃん!」

え?と疑問符を浮かべる獄寺君の手を掴む。
分からないなら無理矢理、ということで頭の耳に手を押し付けた。
ぽかんとした表情を浮かべてから、バッと手を離して一言。

「なんか付いてる!?」

そりゃないんじゃない?

「俺の一番言いたかったセリフを聞いてくれる?」

俺の顔と耳を交互に指差し、口をぱくぱくと動かす。
指差す手を掴んで引き寄せ、細い腰を抱く。
そして耳元で囁いた。

「獄寺君のミルクちょーだい♡」

獄寺君の体温が急上昇したのが分かった。

暗☆転

おわり
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