めだかボックス

□昔話
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同日夕方、その看護士さんが病院の庭で半身が潰れた状態で発見された。
おそらく屋上から飛び降りたのだろうと推測された。
屋上にはごめんなさいと書かれた紙と綺麗に整えられた靴があった。
彼女は必死にがんばっていたし、なんとかして自分の欠点を直そうと必死だった。
僕はそれを少しでも軽減させてあげたかったのだ。
でも、彼女の僕が生きてきた人生の何倍もの時間は、今日この日、僕と出会うことで終わってしまった。
彼女は僕と出会って死ぬ運命だったのか。
そう思うと、悲しいような切ないような。
でも特になんの感想もなかった。

その後も僕の存在は、たくさんの人の人生を終わらせた。
彼らの人生は僕という存在が終着点で、僕に出会って死ぬことを決められていたのか。
それではまるで僕は死神のようじゃないか。
そう思って罪悪感や嫌悪感を抱いたこともあったけど。

「何笑ってるのよ」

そんな中、両親の鬱憤が僕へと向き始めた。
にっこりと笑えば、みんな嬉しそうに僕に全てを話してくれた。
でも父と母はにっこりと笑っても、笑ってくれなかった。

「気味の悪い子」

そう言って母は僕を叩いた。
それでも僕は笑い続けた。
だって僕が笑えばみんな楽しそうだったから。
今から思えば、両親は僕の異常性に気付き始めていたのかもしれない。
それはそうだろう、僕が終わらせた人生の中には両親の友人も含まれていたのだから。

「なんて不気味な子なの!?お前なんて産まれてこなければよかったのに!」

その言葉に僕は生まれて初めて殺意を覚えた。
でもあの日入院した日に見せた母の顔が忘れられなかったから、その殺意は心の奥底に仕舞い込んだ。
本音を隠して、建前を語るようになった。

『ごめんなさいお母さん、僕が悪かったです、反省しています』

そう言うようになってから、僕はなんとなく吹っ切れたように思う。
僕が終わらせた人生は勝手に終わったものだ。
僕に会って彼らが勝手に心を折り、勝手に死んでいったのだ。
僕は悪くない、簡単に命を投げ出す彼らが悪い。
人は無意味に生まれて、無関係に生きて、無価値に死んでいくのだ。
そう考えると不思議と心がすっとした。
僕が二歳の誕生日を迎える一週間前のことだった。
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