きまぐれ長編

□吸血鬼と私(仮)
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「赤い髪・・・」

落ちていた鏡の破片に映し、自分の姿を確認する。
赤い髪に真紅の瞳、そして炎のイレズミ。
聞いたことがある。
これは吸血鬼に魅入られた人間に刻まれるイレズミだと。
そしてその人間の名も、流れ込んできた。

「G・・・」

その場から動かない吸血鬼を見上げた。

「・・・馬鹿か。西洋妖怪の長たる吸血鬼が、人間の女を愛するなんて」

口にすると同時に、それは己が生涯をかけて望んでいることだと知る。
そう、人と妖怪では寿命に差がありすぎる。
サキュバスは人以外にも身体を売る。
他の妖怪に幾度となくバカにされたことだ。

「人外に用はない」

姿が変化したことには目を瞑り、その場を去ろうとした。
だが。

「G?」

後ろでそう呼ばれた。
勢い良く振り返ると、いつのまに降りてきたのか、先ほどの吸血鬼がこちらを見ていた。
見れば見るほどいい男だった。

「・・・いや、違うか。お前はサキュバスだな?」

隠し立てする必要性も感じなかったので、素直に頷いた。

「そうか、残念だ・・・いや、助かった」
「助かった?」

理解できない言葉を吐いた吸血鬼に、訝しげな表情をした。
するとそいつは、うっすらと微笑んで、彼女を腕の中へ招き入れた。
ないはずの心臓がドクリと沸き立つ。

「頼みがある。お前にとっても有益なはずだ」

サキュバスには人肌より若干高い体温があるが、男の身体は異常に冷たかった。
よく見れば脂汗をかいて、息も荒い。
多少は知識のあった彼女はすぐに悟った。
こいつは人間に魅入られているのだと。

「聞くだけなら聞いてやる」

男の冷たい背中に手を回した。
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