前サイト一万HIT小説

□日常のような、非日常
1ページ/3ページ

24歳の場合

時計の針がまっすぐ縦に並んだ、午後六時。
扉が勢いよく開かれる音に、隼人は持っていた洗濯物を置いた。
ゆっくりと立ち上がって廊下に続く扉を開くと、大きな足音が聞こえてくる。
開けた瞬間、何かに包まれた。

「ただいま隼人ー!選択肢はもちろん隼人だよ!」
「なんのことですか」

大人になってずいぶんと広くなった肩に顔を埋めさせられた。
外の冷気で冷たくなったスーツが隼人の体温を奪っていく。
少し身震いして、いい加減開放してもらうためにがっしりと背中に回された腕を押し返した。

「あー隼人の匂いだー、いー匂い」

首元に顔を擦り付けて犬のように匂いをかぐ。
無意味に力の強い目の前の上司にカチンと来た隼人は、自由に動く足を後ろに軽く振り上げた。
そのまま膝を曲げ、直角の角を作り、前方の腹部へと力強く押し出した。
まごふっと不思議な悲鳴を上げて後ろ向きに倒れた。

「ご苦労様です、綱吉さん」
「ちょ、出るっ・・なんか、出るってこれ・・・!」

脇にしゃがみこんで腹を抱えこんだまま丸まった綱吉の腹を撫でた。
自分でやったのだが。

「まだ食事の用意が出来ていないので、いつまでも廊下に寝ていないで自分の部屋にでもこもっていてください」
「何が出るってこれ内臓的なモノが・・・ってこもってなきゃダメなの!?」

部屋に入ったまま出てこない方がリビングとキッチンは平和だ。
ちなみにリビングではツナと獄寺がゲームをしている。
いつものことなので二人とも完全にスルーだ。
ガバ、と起き上がった綱吉を見届けてから隼人は立ち上がった。

「隼人ーおかえりなさいのキスとかないの?」
「ないです」

代わりに畳み終わった綱吉の服と判子待ちの書類の束を渡した。
それを見つめたまま動かない綱吉をそのままに、沸騰させたお湯の前に立つ。
お湯の中からトマトを出し、まな板の上で湯剥きを始める。
三つ目の皮をむき終わったとき、後ろから両手を掴まれた。

「まだ何か?」
「んー・・・なんかこう、料理してる姿が萌える」

自然渋い表情になるのを隠しもせずに、べったりとくっつく綱吉を見た。
湯気の立つトマトが、綱吉の腕を振り払おうと込めた力で少しつぶれてしまった。
白い手首を汁が伝うのに気付き、ベロリと舌を這わせる。
ざわ、とした舌の感触に背筋にぞくぞくとしたものが這い上がってくる。
そのまま露になっている首筋にも舌を這わされる。

「ん・・っ、ちょ、なにをっ」

ちらりと薄く開いた瞳のオレンジ色の光にドキリとする。
トマトをまな板に置かされ、身体の向きを正面に変えられる。
優しく髪を撫でられ、後頭部を固定された。
合わさった唇に抵抗も出来ずに口内をかき回される。

「っ・・ふ、ん・・ぁ・・」

息が苦しくなり、顔を逸らそうと動くが、許されずに逆に壁に押し付けられる。
だが、その過程で目の端に映ったものに隼人は固まった。
抵抗しなくなった隼人に機嫌をよくした綱吉は隼人のシャツを下からめくりあげた。
次の瞬間、隼人は悲鳴を上げて綱吉の腹にボディーブローを決めた。

「ど、どうかしましたか!?な、何かご用でも!?」

腹を押さえてその場にうずくまった綱吉を他所に、キッチンとリビングを繋ぐ扉に笑顔を向けた。
真っ赤になって覗き込む獄寺とツナが同時に首を横に振った。

「ぐおおおお・・・もう俺の腹筋のHPはゼロです・・・」

小さく悲鳴を上げながら二人はどたどたと階段を上っていった。
危ないところだった、隼人はため息をついた。
いや、最後までいたしてしまわなかったとは言え、教育上よくないものを見せてしまった。

「最近隼人バイオレンスだよね・・・」
「盛りの付いた犬みたいにどこでもサカってくるからです」

未だ熱の冷めない頬に冷えた手を当てて言い知れない羞恥に椅子に座り込んだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ