REBORN!

□嵐の守護者の恋愛指南
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隼人が学校から帰ってきた。
朝、ずいぶんと早くに起きて身支度をするものだから何事かと思ってしまう。
俺たちの時代からずいぶんと時間の経ったこの世界には、学校という必要最低限の教養を学ぶ機関があるらしい。
どう見ても隼人がそんな機関に甘んじるような性質には見えないが、それでも朝七時という早い時間に起床する理由は一つしかない。

「それでよ、今日は数学のセンコーが恐れ多くも十代目に・・・!」

二つのコップに入ったアイスコーヒーを飲みながら今日の学校のことを話す隼人。
そう、どう見ても朝早くに起きるように見えない隼人を動かす原動力は、その十代目。

「そのせんこーってのはなんだ?」
「あ?・・学校で勉強教えるやつ。うぜーやつばっかだけどな」

適当に相槌を打ちながら、隼人の学校で使われているらしい教本を眺める。
日本語は雨月に習って少しは読めたんだが、この数世紀という期間に文学も随分変革を遂げたらしい。
どこを見ても見覚えのない文字ばかりだ。
そもそもこのカタカナとかいうのはいつ生まれたんだ?
ひらがなの形も随分と変わっているし、漢字もかなり簡略化されているんだじゃいだろうか。
何よりも文法が全然違う。

「もう某ってのは使わねーのか」

昔覚えた一人称だ。
候、や、いとなどの言葉も使われていないし、この「う」というのはいつから「ふ」と表記されなくなったのだろう?
日本に関心の深かったジョットと違い、俺はさわりだけにしか触れていない。
だから日本語の変化にもあまり興味がなかったのだ。

「古すぎだろそれ・・・いつの時代だよ」
「なんとなくなら読めねぇこともねぇがこうも違うとな・・・」

独自の進化を遂げ、言葉をいくつも組み合わせる表意語である日本の文字は、イタリア語や英語よりもずっと高度なのだ。
教本に書かれている数式も見たことないものばかり。
理解は出来ないが、少し面白くはある。

「隼人、日本語教えろよ」

唯一内容の分かった英語の教本をパラパラとめくりながらそう呟く。
隼人は一瞬ほうけたような表情をしてから、すぐに大声を出した。

「なんでだよ!」
「不便だろ、日本語喋れねぇと。綱吉とも喋れねぇじゃねぇか」
「喋らなくていいだろ!」

冷たいことを言うやつだ。
俺だって綱吉や他のデーチモの守護者たちと会話したい。
イタリア語しか話せないのでは一部の者としか意思疎通すら叶わない。
ジョットはあの通り日本が好きだから困らないようだが、俺は違うのだから。

「・・・十代目・・今頃何してるかな」

コーヒーのコップを流しへ運ぶついでに窓の外を眺めて隼人が呟いた。
隼人の頭には本当に十代目か珍獣か未確認生物しかないらしい。
最初この家に来て、まず紹介されたのが幻の珍獣、ツチノコだったときは本当にどうしようかと思ったものだ。
確かに、人類が未だ解明出来ていない謎という点では知的興奮も覚えるものだが。

「・・・なぁ」

ストローという意外に便利なものがずるずると音を立てた。
空になったコップを置いて視線だけを隼人に向ける。
言いにくそうに背を向ける隼人は、流しにコップを水に漬けるだけで帰ってきたらしい。

「なんだよ」

隣に胡坐をかいて座り、緑色の視線を泳がせる。
しかし、血縁関係はないはずなのに見れば見るほどそっくりだ。
他人の空似というやつだろうか。
こいつの姉だという女とは髪の色まで似ていた。

「お、お前は初代とうまくいってんのか?」

コップを机に置いていて良かった。
言われた内容が内容だったために全身が硬直し、一瞬脳が理解を拒否する。

「・・・うまく、って何が」

なんとか搾り出した声は多少弱弱しかったが裏返ったりはしなかった。
幼い表情が羞恥に変わり、白い頬が赤く染まった。
口をぱくぱくと開けたり閉じたり、喋ることが纏まらないのだろう、最終的には口を閉じてしまった。
ストローで中にある氷をガラガラと動かしていると、気まずい沈黙の中、やっと口を開いた。

「その・・よ!・・・夜・・とか」

だんだんと小さくなっていった声を出来のいい耳がばっちり拾う。
衝撃的な内容に、予想はついていたとはいえ、思わず手に力が入ってストローを握りつぶしてしまった。
夜ってなんのことだ?なんて野暮な質問はしない。
それだけでなんのことか分かるくらいは経験を積んでいる方だ。

「・・お前はどうなんだよ」

そう聞けば、隼人は見るからに消沈していった。
分かりやすいのはいいことだ。
だが腹心の部下を目指すならあんまり感情を出しすぎるのもいかがなものか。

「あのよ・・最近、その・・・十代目があんまり、し、したがらないんだよ・・・そういうことを」

弟のように思っていた隼人からこんな下世話な話を相談されて俺はどうしたらいいのだろう。
というかなんかこれは俺がジョットと経験豊富みたいに思われてないか?
先ほどのジョットとうまくいってるのかという質問はそういう意味なのだろう。
そりゃぁ確かにそういう関係ではあるが、確かにこいつらよりは経験あるかもしれないが。
ああ居た堪れない、俺はこんなガキに恋愛指南をしなければいけないのか。
しかも体験談を紐解いて。

「知るかよ・・・誘ってみたらいいじゃねぇか」
「それが出来ねぇから相談してんだろ!」

急に乗り上げて腕を掴む。
隼人の目はもう心底悩んでいますって語ってる。
確かに短い間しか付き合っていないが、こいつが好きな相手には尽くすタイプだというのは分かる。
きっと綱吉がしたがらないのは自分に原因があると思って探しているんだろう。

「じゃぁ直接聞いて来いよ」
「もっと出来ねぇよ!!」

感極まったのか、膝たちのまま拳を握り締める。
俺とジョットは気心知れているから簡単に突っ込んだことを聞けるのだが、隼人と綱吉はそうでもないようだ。
真剣になりすぎて思わず涙ぐんできた隼人を見てため息をつく。

「・・・んじゃぁ、その気にさせるしかねぇだろ」

銀色の髪をぽふ、と軽く撫で、目線を合わせると、隼人は目を見開いた。
しっかり覚えるんだぞ、俺様直伝の大空を落とす方法だ。
俺も隼人も理論派、実践よりも口で説明するほうが早い。
向かい合って人差し指を立てる。

「いいか、一発で覚えろよ。二度とこんな屈辱的なこと言うのは嫌だからな」
「お、おお・・」
「これはジョットも気付いてねぇ。うまくやればアイツらをコントロールだって出来る」

そんなつもりはないのだろう、隼人は呆れた目で見てきた。
便利なものだぞ、仕事も早く終わるし。
真剣な表情で紙を取り出した隼人に説明を始めた。
しょうがないよな。
まっすぐ気持ちをぶつけられるのに弱いんだ。
弟分ってことで特別効果的な方法を教えてやるよ。

嵐は大空をかき回す存在なんだから仕方ない。

終わり。

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