REBORN!

□Un anulare
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しんとして冷たく、しかし澄んだような空気。
空は少し曇り気味で、ひょっとしたら今日は雪が降るんじゃないだろうか?
そう思えるような天気だ。
吐く息が白く、はーっと白い息を広げてみたり、ほそーく遠くに吹いてみたり。
黒のマフラーを巻きなおし、カッターシャツ、インナー、セーター、ブレザーと着ても震えている身体を摩る。
その際に肩からずれたカバンを抱え上げた。
そしてまた廊下を歩き出した。
隙間の開いた窓からの冷たい風でさらに寒気が増した。
特にむき出しの足の寒さと来たらない。
あまりの寒さに笑みがこぼれる。
だがGは存外、冬という季節が好きだった。
春夏秋冬。
春と秋が短くなっていくにつれて、夏と冬の温度差は広がったように思う。
夏の暑さと来たら、本当にすずしい国へ渡ってしまおうかというほどに暑かった。
それと同じくらいに寒い日本の冬。
なぜだろう、冬にはどこかへ渡ろうとは思わない。
窓の外から目線をはずし、階段を上る。
学校の廊下というのはなぜこうも寒々しい造りなのだろう?
木造だったなら、もっと違った印象があったのだろうか。
Gは木造の校舎がどんなものなのか分からないゆえに、色んな可能性を考えてみた。
夏は暑そうだとか、でも風はけっこう入ってきそうだとか。
見た目にも温かみがあって、あ、でも虫とかいそう。
そんなことを考えているうちに、目的地が見えてきた。
またカバンを抱えなおし、引き戸を開けた。

「おお、G。おはよう」

ふわりと笑いながら手を上げたジョットは、こちらの返事も待たずに駆け寄ってきて手を差し出した。
珍しく満面の笑みを浮かべたそいつの言いたいことはなんとなく理解できた。
ひそかにぎゅ、と握ったコブシを緩め、その手のひらを真上からはたいた。

「なにをする」
「なんのまねだ」

叩かれた手を摩りながらGの肩に腕を回す。
もう教室には何人も生徒が登校して来ているのに、まったく恥を知らないやつだ。
その中に混じる嫉妬の視線にも、Gは気づいている。
ジョットは話せばアンポンタンなのが分かるが、パっと見好青年で、しかも眉目秀麗と言って差し支えない。
ひょろいが、性格は義理難く、以外に男気あふれるやつだ。
モテるのは当然なのかもしれない。
それを面白くないと思うのは、ただのエゴでしかないのだ。
昔から知っている幼馴染が誰かに取られるような、弟に恋人が出来てさびしい姉のようなものなのだ。

「何を言っている。今日だぞ?今日という日、お前は俺に渡すべきものがあるはずだ」

ジョットの前後に席を陣取るナックルと雨月は、ニコニコと嫌味のない笑顔を浮かべている。
二人の机にはすでにいくつかのかわいらしいラッピングが施された箱が置いてある。
まだ朝の八時半だというのに、女生徒たちもご苦労なことだ。
そしてもちろん、このひよこ頭の机には二人とは比べ物にならない数の箱、箱、箱。
Gは肩に回った腕を引っつかみ、ジョットの背中にひねりあげてやった。

「い、痛い痛い!なんだ、どうしたんだ?」
「そんだけもらってりゃぁ十分だろうがひよこ頭」

振り返ろうとしたようなので腕を開放してやる。
おかしな方向へ曲がっていた肩を摩りながらジョットはGに迫った。

「違う、俺はGからのチョコが欲しいんだ」

真剣な表情を浮かべるジョットの後ろに視線を送る。
黒板に書かれた日直や日付。
そこには確かに今日が二月十四日であることが書かれている。
聖・バレンタインデー。
女性が男性にチョコレートを送る、と相場が決まっている。
ジョットの机の上に転がっているのは、間違いなくチョコレートだ。
そう、この学校でジョットのことを想う女生徒が、懸命に作ったチョコレート。
顔の広いジョットを想う女が少なくないのは知っていた。

「はいはい、じゃぁ昼休みにココアでも奢ってやるよ」

女の自分よりも少し低い位置にある頭をぽんぽんと撫でる。
いぶかしげな表情を作ったジョットがその手をつかんだ。

「・・・本当か?」
「ああ」

頷いてやっても何度も何度もジョットは尋ねてきた。
弟のようにかわいいジョットが相手でも、そろそろイラついてきた。
予鈴も鳴ったし、早く席に着きたい。

「本当に本当だな?」
「しつけぇ」

ジョットの顔を机に押し付けて、自分の席に着席した。
Gはジョットの右隣の席で、視界の端に大量のチョコレートを拾い集めるジョットを捉えた。
急にやる気がなくなってきた。
引き戸を開けて入ってきた担任の顔を見るまでもなく、Gは顔を伏せてしまった。
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