綱獄

□コスチュームプレイ、略してコスプレ
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恋人のかわいらしい姿を見てみたい。
そう思うのは誰だって同じではないだろうか。
男であれ女であれ、少しかわいげがあるのが好まれる。
そしてここにも、同じような内容に頭を捻らせる少年が一人。

「・・・やっぱりオーソドックスに」

普段バカのレッテルを貼られ、真面目に勉強しているところを見たものはほとんどいない。
だが、少年は酷く真剣に悩んでいた。
目の前にコスプレ雑誌を複数冊広げながら。

「肌が白いから黒い服とか映えそうだよね」

脳内に思い描く銀髪の帰国子女は、黒いゴスロリ衣装を着ている。
黒いフリルやプリーツからの白い肌、絶対領域。
うんうんと頷くのは傍目には非常に奇妙だ。
ゴスロリ衣装の載ったページをぺらりとめくると、そこにはまた情欲を刺激するものがあった。

「ちゃ、チャイナ服!」

赤い布地、そしてノースリーブ、スリット。
深く入ったスリットから覗く太ももは、男なら一度は手を滑り込ませてみたい。

「・・・そんな格好で給仕してくれたら俺、勉強どころじゃないや」

なぜか煎茶を出す姿を思い浮かべてだらしない顔をした。
そのまま膝の上に座って、スリットから足を除かせながら誘われたい。
よだれの出そうな表情をしながら、ふと視線を横にやると。

「こ、これは!」

猫耳メイド特集があった。
脳内にはピンク色の妄想・・ならぬ猫耳尻尾をつけたメイドさんの姿が。
四つんばいでにゃーとか言っている。
うんうんとか頷いて、急に立ち上がった。

「心は決まった。あとは仕入れるだけ・・・!」

手をぐっと握り締め、何に気合を入れているのかは分からないが鼻息荒く夕日に向かって決意表明。
絵にもならないその光景を眺める丸い目が二つ。

「・・・育て方間違ったな」

彼の家庭教師は実は最初から部屋におり、ずっと妄想の一端を聞き続けていた。
どことなくいつもより苦味が濃い気のするエスプレッソを飲み干して、黒いスーツの赤ん坊は部屋から出て行くのであった。

「ん?でももしかしたらこのくらいならハルが持ってるんじゃないか?」

幻滅する赤ん坊のことなど露知らず、知り合いのコスプレマニアを思い出す。
サイズが合うかどうか分からないが、細いし多分大丈夫だろうとあたりをつけた。
気合を入れて早速ハルの家へと向かうために部屋の扉を開ける。

「あ、十代目」

そこには長らく少年の脳内を支配していた人物が立っていた。
しかもいかがわしい想像をしていたせいで気まずさ満点。

「ご、獄寺君・・どうしたの?」
「いえ、十代目のお母様にお飲み物を持っていくようにと」

珍しく真剣に考え込んでるみたいだから持っていってあげて。
そういうまったりとした母の声が聞こえた気がした。
しゅわしゅわと泡を立ち上らせるメロンフロートはおいしそう。
いやそれよりも夏の暑さで薄着になった獄寺の方がおいしそう。
シャツの下に着ているノースリーブのタンクトップ。
白い肩から目を逸らした。

「ありがとう・・とりあえず入って」

扉を開けて手招きするとぺこりと頭を下げて部屋に入った。
中に入った途端、獄寺はうっ、とうめき声を出し、あとずさる。

「え、なに、どうしたの?」
「どうしたのじゃないっすよ十代目、換気もしないでよくこんな部屋にいれましたね・・・」

そういえば廊下がすずしい。
蝉がすでにうるさいというのにこれはおかしいかもしれない。
獄寺が飲み物を机に置いてすぐに窓を開けた。
あまりにも真剣に集中しすぎて部屋の暑さも気にならなかったらしい。
ああそういえば頭がふらふらして身体がべたべたして・・・。

「十代目ぇえ!!」

人間とは不思議なもので、自覚したら最後、それまで気にならなかった症状が襲ってくる。
全く病は気からとはよく言ったものだ。
慌てた様子で駆け寄り、大事な上司の肩を揺する声を聞きながら、意識を手放すのであった。
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