綱獄

□始めまして
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「ゆうかく?ってなに?」

前を歩くリボーンの小さい歩幅に合わせながらそう尋ねると、リボーンは小さくため息をついた。
小さく横に揺れる黒い帽子をかぶった頭にムッとする。
隣を歩く山本が俺の肩に腕を回した。

「遊郭ってのはな、キャバクラのエロいバージョンだと思えばいいのな」

それが正しいのかどうかは分からないけど、キャバクラという単語に俺は勢いよく後退した。
確かにもう24だし、彼女がいてもおかしくない年だけど(いないけど)
女の子に囲まれて何かするなんて俺には絶対に無理だ。
行く前から顔が熱い。

「まぁそれでいいか。俺たちは今回遊びに行くんじゃねぇぞ」
「え?」

リボーンのことだからただ女の子と喋りに行くんじゃないとは思っていたけど。
周りをキョロキョロと見渡すのに釣られて、俺も視線を巡らせた。

「な、なんか思ってたのと雰囲気違うんだけど・・・」

まだ肌寒い時期だというのに大胆に肌を露出させた服を着て、脂ぎった男と腕を組む女の人。
口に出すのを憚られることの書かれた看板を掲げながら呼び込みをする男の人。
まだ少し明るい時間なのに、その場の雰囲気は明らかに妖しい空気を漂わせていた。

「着いたぞ」

居た堪れない空気に、自分が場違いな気がして小さくなっていると、リボーンの声が響いた。
顔を上げると、このあたりの大きな建物の中でも、特に大きいその場所が目に入った。
色合いや見た目は他の建物に比べれば地味ではあるが、それでも高級感漂うそこは他よりもずっと高そうに見える。

「まさかお前、赤ん坊のクセに・・・」
「ちげーぞ」

最悪の事態はなんとか回避、というか勘違いだったらしい。
いくらなんでも赤ん坊のリボーンが女の人とエロいことするのは見たくないし。
ニヤリと笑ったリボーンの姿がすばやく消え、嫌な予感に後ろを振り向こうとするが、時すでに遅し。
殺人キックが後頭部に直撃した。

「うわあああ!」
「ツナ!?」

どかーんという音を立てて木で出来た引き戸を突き破った。
もういっつもこんな役回り。
色んな叫び声と足音を聞きながらうっすらと涙を浮かべた。

「おーい、大丈夫か?」

段差のある軒にうつ伏せながら、建物の外にいる山本の声を小耳に挟む。
蹴られた頭と打った鼻を摩りながら頭を上げると、一つだけ、まっすぐこちらに向かってくる足跡に気付く。
他の人たちは遠巻きにひそひそと話している。
ざわりとした寒気を感じ、背中を反らせて顔を上げると、目の前を銀色が掠めた。

「うわあああ!?」

思わず石造りの玄関へ尻餅を付き、靴を踏み潰す。
バキバキという派手な音を立てて床に突き刺さった銀色の光が、薙刀だと分かったのは少し時間が経ってからだった。

「な、なに!?」
「なにじゃねぇ。てめぇは何モンだ」

地を這うような威嚇の色を宿した声が響き、しゃがんで顔を俯かせた人物が動き出す。
薙刀の柄を握り締めた拳の向こうの顔がゆっくりと起き上がり、瞳をのぞかせた。

「・・・っっ」

思わず息をのんだ。
あまりにも綺麗なその碧色に釘付けになる。
さらりと流れる銀髪が白い肌にかかり、まるで他の遊女が目に入らないくらいに艶やかだ。

「何が目的だ?ここのバカ女に捨てられた腹いせか?」

バカ女という言葉に周りの人たちが非難の声を上げた。
鋭く睨みつける瞳はまっすぐな光を宿していて、逸らすことも出来ずに見つめ返す。
艶やかに動く唇や、整いすぎというくらいの顔。
この人もここの従業員なんだろうか。

「ちゃおっス、おめぇがここの用心棒か」

リボーンが俺の膝の上に立ち、薙刀を床に突き刺したまま、それにもたれかかる銀髪美女に話しかける。
うっすらと細められた目がそれを肯定し、薙刀から手を離した。

「なるほど・・・あなたがボンゴレ十代目ですか」

伏せられた目蓋。
長く銀色に輝くまつげが白い肌に影を作る。

「ご無礼をお許しください」

尻餅をついてだらしない格好の俺の前に正座して頭を下げる。
慌てて起き上がって頭を上げさせた。
のぞいた碧の瞳に見つめられて身が竦み、全身の血が沸き立つ気がした。

「近頃色々と難癖をつけて殴りこむ輩が多いもので」
「・・は、はぁ・・・」
「こちらへどうぞ」

控えめに手を引かれて、木造の廊下をゆっくりと歩き出した。
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