綱獄

□おいしそう
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GWに出された少しの課題をするために、獄寺は綱吉の家へ向かっていた。
山本も来る予定だったのだが、GW中は店が忙しく、手伝いをしなければならないから行けないという。
邪魔な野球小僧がいないことに心が弾み、心なしか足が速く動く。

(たった一週間の短い期間に課題なんか出しやがって)

いつも通りに課題のプリントを掲げる教師を思い浮かべ、舌を打つ。
だが、そのおかげでこうして休み期間にも綱吉の家へ行く口実が出来たのだからよしとしよう。

(出たのは四教科だけだしな)

理科、国語、数学、英語。
課題のある科目は、一ヶ月の長期休暇よりはずいぶんと少ない。
毎日一教科ずつ終わらせてもおつりが来るのだ。

「あら、獄寺君」

綱吉の家が見えてきて、インターホンを押そうと手を上げた瞬間、扉が開き、奈々が出てきた。
いつもよりも念入りにめかしこみ、後ろには子供たちを連れている。
どこかへ出かけるのだろうか。

「実はね、今日商店街の方で新しい遊具が入ったんですって」

ショッピングモールなどの屋上によくある小さな娯楽施設のことだろうか。
そういえばハルが騒いでいたような気もする。

「今日はランボくんたちとそこへ遊びに行って来るわね」
「はい!お気をつけてください!」
「あ、ツナなら部屋にいるから。夕方には戻ってくるけど、お昼は冷蔵庫にあるスパゲッティを食べてね」

綱吉にそっくりの笑顔を浮かべる奈々は、いつもろくなものを食べない獄寺の食生活にまで気を使ってくれる。
本当なら恐れ多いことに遠慮したいところなのだが、せっかくの好意を無碍にも出来ない。
それに綱吉にもしっかり食べるように言われているのだ。
頭を下げてお礼を言い、商店街へ歩く背中を見送った。

「十代目!」

萎縮しながら家に入り、ノックをして部屋の扉を開けた。
綱吉はテレビに向かってコントローラーを握っていて、口にポッキーを咥えたまま振り返る。
予想はしていたが、やはり宿題をしているわけではなかった。

「あ、獄寺君!いらっしゃい」

ロード画面になっていたゲームが敵の姿を映すと、すぐにテレビに向き合ってしまう。
宿題をしようという話だったのだが、綱吉がゲームを始めるとある程度まで進めないと自主的にやめることはほぼないのだ。

「あ、あの・・十代目」
「んー?」

ゲームのことはよく分からないが、下のほうに日本語が流れる。
主人公の名前は『ナッツ』になっていて、机の上に置いてあるコップの氷が溶け切っているのを見て、かなりの時間ゲームに没頭していたことが分かる。
せっかく出来のいい目を持っているのに、こんなにゲームばかりしていては視力が下がってしまう。
獄寺は荷物をそっと置いて、綱吉の隣に正座した。

「課題をしないと・・またリボーンさんに・・・」
「んーちょっと待って・・・あ、ごめん。そこにファンタあるからコップに入れてくれる?」

ゲームに熱中している綱吉は机に向かう気配がない。
小さく返事を返して、机に置いてあるファンタのペットボトルを手に取る。
だが、コップの氷が溶けていてこのまま入れてはジュースが薄くなってしまう。
少しぬるくなっているファンタを机に戻し、コップを手にとって立ち上がった。

「すいません十代目、氷入れてきます」
「うん」

手を動かしながら画面に釘付け、空返事。
苦笑をもらして扉を開いて、階段をゆっくり下っていく。
冷蔵庫の小さな取っ手を引き、氷を複数音を立ててコップに入れた。
上の冷蔵室の扉を開くと、ミートソースとスパゲッティの麺がラップにかかっている。
冷気のこぼれる扉を閉じ、すぐに部屋へ戻った。

「おかえり、獄寺君」

ゲームが最初の画面に戻っていて、綱吉は机に肘をついてニッコリと笑った。
机をはさんで正座し、コップを机に置く。

「そういえば最近は獄寺君、ちゃんと食べてる?」
「は、はい!十代目に言われた通り、野菜を中心に食べています!」

そっか、と奈々にそっくりの笑顔を向けて、コップにファンタを注いだ。
随分と炭酸が抜けているのか、少量の泡が音を立てる。
その紫色の飲み物をこくりと飲み干すのを横目で見て、カバンの中から筆箱と課題を取り出す。

「・・・なんか獄寺君、俺のお嫁さんみたいだよね」
「はい!?」

ことんと置かれたコップについた水滴を指で擦りながら、綱吉はくすくすと笑った。
カバンを引っ張り、中から半分に折られた課題を取り出す。

「とりあえずやろっか」

先ほどの爆弾発言は綱吉にとってはなんでもない言葉だったようで、取り出したシャーペンを一回転させた。
小さな音を立てながら名前の記入欄に沢田綱吉と書き込んだのを見て、獄寺も綱吉に教えるためにやらずに置いておいた紙に名前を書く。
最初の基本的な問題を解いていき、たまに綱吉の様子を覗き見る。
手の動きは拙いものの、まだ淀みなく動いている。
少し安心して手を動かしていると、綱吉が小さな声を出した。

「あのさ」

大きな目をやや俯かせて紙を睨む姿は、どこかハイパーモードの彼を思い出させる。
少し顔を上げて返事をすると、綱吉の手の動きが止まる。

「噂で聞いたんだけど」
「はい」

手を開き、シャーペンがぱたりと倒れて転がる。
机に両手を突き、膝たちで獄寺の元まで行くと肩に手を置いた。
そのオレンジ色の瞳に雄の色が見えるのに、頬が熱くなる。
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