めだかボックス

□昔話
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不知火ちゃんから聞いたところによると、僕とめだかちゃんは似たような人生を歩んでいるらしい。
善吉ちゃんによると僕は誰よりも潔癖症らしい。
人吉先生曰く、僕とめだかちゃんは似たもの同士らしい。
でも、僕は誰よりもめだかちゃんと正反対だ。
ここまで同じなのにどうして僕は正反対なのだろう?
順を追って思い出してみよう。

十八年前。
僕が生まれたと同時に、病院にいるハトが全部死んだ。
まるで僕から逃げるようだと子供ながらに傷ついた。
母の腕に抱かれながら、僕ははっきりと分かった。
幸せそうに僕を見る両親の未来が無いことが、生まれたばかりの赤ん坊であるはずの僕には手に取るように分かったのだ。
そしてその予感は正しかった。
僕は比較的早く離乳食に移り、それと同時に両親のケンカが増えた。
日々、怒鳴り合いと暴力。
痣の増える母と、家に帰らない日の増える父を見ながら、それでも僕は健康的に育っていった。

ある日、僕は高熱を出して病院に入院することになった。
疲れきった母の心配そうな態度が記憶に焼き付いている。
熱も下がり、もうすぐ退院というところで、僕はある看護士の女の人と知り合った。
僕の主治医だった男に怒られていたその人は、どうやら注射を打つのを失敗したらしかった。
項垂れたその人に僕はなんとなく興味が沸いた。

「お姉さん、どうしたの?」

にっこりと笑えば、看護士さんは顔を綻ばせた。

「お姉さんね、練習では上手く出来るのよ。でも実際の患者さんを前にするとダメなの」

害のない子供に対してなら簡単に胸のうちを話した。
注射の失敗が続けばそれは怒られても仕方がない。
もう後輩も出来て教える立場なのに、点滴の血管が取れないのだと。
看護士さんは今にも泣き出しそうだった。
二人で屋上へ行き、ジュースを飲む。
幸いそこには誰もいなかった。

「ありがとう、禊くんに話したらなんだかすっきりしたよ」

そう言って優しく頭を撫でてくれた看護士さんに、なんとか元気を出して欲しかった。
だから僕は心から応援した。

「大丈夫だよ!どんなに失敗しても、どんなにお姉さんが患者さんを苦しめる結果になっても!恥じることはなく、堂々としていればいい!これからもどんどん失敗して怒られて患者さんを苦しめればいいよ!だってそれはお姉さんのかけがえのない唯一の個性なんだから!」

看護士さんは濁った目で僕を見た。
まだ元気のない看護士さんに、僕は持っていたカルピスのジュースを渡した。
もしかして僕はこの人を傷つけちゃったのかなぁ。
年下の僕に言われても惨めなだけだろうか?
そう思ったから、僕は慰めるための嘘を吐いた。

『才能がないんだから出来なくてもしょうがないよ。がんばればきっと出来るようになるさ!』

満足した僕はバイバイ、と手を振って病室に戻った。
看護士さんは元気が出たのかなぁ。
僕はあの人の役に立てたのかなぁ。
そう思うとなんだかむず痒くて、わくわくしたような気持ちになった。
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