めだかボックス

□一目惚れ?
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箱庭学園生徒会執行部の特徴といえば、主にメンバーの個性にある。
登校免除の特待生、十三組の黒神めだかを中心とする、チーム特待に部活荒らしの一年生、そして転校生。
個性豊かなその生徒会メンバーを知らない者はこの学園に存在しない。
そしてもう一つの大きな特徴。
それが悩み事を相談する目安箱、通称めだかボックスだ。
和風使用の目安箱には、日々超人会長へのお悩みの相談が投書されている。

「・・・ったく、人使いが荒いよなぁ」

そして有名なそのめだかボックスを持って廊下を走っているのが、生徒会執行部庶務である人吉善吉である。
毎日確認する目安箱を、今日たまたま忘れていた。
放課後の部活動に勤しむ生徒たちを横目に、会長、黒神めだかに言われてすぐに取りに走ったのだった。
なかなかの大きさである目安箱には少なからず投書がされている。

「これもめだかちゃんの人望のおかげか」

笑えるほど人気者である幼馴染に悩みを相談する生徒はあとをたたないのだ。
生徒会室まであと少し。
角を曲がればすぐだ。
善吉が勢い良く角を曲がった瞬間。

「危ねぇ!」

誰かが前を歩いており、走っていたせいで止まれずにその背中を突き飛ばしてしまった。
ガコン、と大きな音を立てて目安箱が床に落ちた。
善吉は慌てて立ち上がり、ぶつかった相手に手を伸ばした。

「悪ぃ、大丈夫か?あんた」

まず目を引いたのは制服だった。
明らかに箱庭学園のものではない。
清楚な長いスカートに大きなリボン。
それには見覚えがあった。

「・・・あんた、江迎の知り合い?」

確かこの制服は城砦女学院の制服だ。
うつ伏せから腕の力で起き上がったその女生徒に手を差し伸べる。
城砦女学院からの転校生は江迎怒江だけだったように思うのだが。

「他校生が勝手に歩いてるとうちの怖ーい風紀委員会が黙ってねぇぞ?」

こくりと一つ頷いて、善吉の手を取って立ち上がった。
黒い艶やかな髪が背中の真ん中辺りで靡いていて、大きな瞳がかわいらしい。
華奢だし、折れてしまいそうなほど手首も細かった。
だが、きょとんとして善吉を見つめる顔にはなんだか見覚えがあるような?

「あんた、俺とどっかで会ったことある?」

驚いたように目をまん丸にさせてから、勢い良く首を横に振った。
そのまま善吉の隣をすり抜けようとしたとき、女生徒がぐらりと揺れる。
反射的に細い身体を引き寄せると、力なく善吉の腕の中へ倒れてきた。

「気をつけろよ?」

先ほどから一言も発しないその女生徒は、善吉の制服をぎゅっと掴んだかと思うと、腰に回る腕を振り解いて善吉を突き飛ばす。
そのまま振り向きもせずに走り去っていってしまった。
目安箱を持ち直し、善吉は首をかしげた。
生徒会室に向かっていたみたいだったから、めだかに用事があるのかと思ったのだが。

「・・・つーか、誰だったんだ?」

可愛い子だったな。
大きな瞳を思い出すと、顔が熱くなった。
いやいや、と首を横に振る。
めだかに聞けば分かるだろう。
あの会長は全校生徒の名前を覚えるくらいのことは普通にしてのける女なのだから。
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