めだかボックス

□好きだった
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「そういえば球磨川」

箱庭学園の放課後、生徒会メンバーは花に囲まれた生徒会室で各々の仕事に勤しんでいた。
会長である黒神めだかは相も変わらず恐ろしいスピードでプリントへハンコを押すなり目を通すなりして仕事をこなしていた。
そんな手を一切遅れさせることもなく、視線を投げることもなく、紙の音しかしなかった教室に声を漏らした。
生徒会副会長という職に就いた球磨川禊は、何をするでもなく部活に励む生徒をのんびり眺めていた。

『ん?何かな、めだかちゃん』

球磨川もまた、めだかを一瞥もせずに応えた。
人吉は二人が会話するごとに言い知れない心持ちになる。
なにせ人生でこれほど真逆で、敵対する連中を他に知らないのだから。

「貴様、この箱庭学園に転校する際に転校のテストを受けたのか?」

いつの間にか、今度は空を舞う蝶々に目を奪われていた球磨川が振り返った。
所謂童顔をにっこりと笑顔に変えて明るく答えた。

『もちろんだよ!いやぁ流石はエリート揃いの箱庭学園!とってもくだらない試験だったよ!』
「そうか」

自分の学校をバカにされたような、褒められたような。
いやこれはバカにされている!
人吉はそう確信して球磨川に目線を向けた。
と、蝶々の次は飾ってある花を弄って遊んでいた。
こいつには仕事ないのか?と思い、球磨川の席を見ると、きちんと整えられた書類が並んでいた。
そうだった、人生にことごとく負けてきた過負荷の代表の偏見のせいか忘れていた。
こいつは基本的にはめだかに匹敵するほどのエリートで、会長に比べれば格段に少ない副会長の仕事などとっくに終わっている。

『どうしてそんなことを聞くのかな?』
「なに、ただふと思っただけだよ。他愛ない雑談だ」

気付けば、阿久根高貴も喜界島もがなも、球磨川とめだかに目を奪われていた。
ついこの間まで天敵、いや、今も天敵の二人だ。
心配にならないかと言えば勢い良く首を振って心配だと伝える。

「カッ、どうせオール百点だろ」

小声で言ったのに聞こえたらしい、めだかと球磨川が人吉に目線を向けた。
球磨川は可愛い顔を歪めた。

『まさか!善吉ちゃん、決め付けはよくないよ!僕は今まで生きてきて一度も百点を取ったことないんだから!』
「その通りだ善吉。中学の頃だって球磨川は全てのテストが零点だったじゃないか」

知らねーよ!なんで他人のテストの点数を知ってんだよ!

「全部のテスト零点って・・・取るほうが難しいような」

喜界島が恐る恐る口にした。
阿久根は書記の席で自分の仕事を再開した。
どうせ球磨川のことだ。
百点取れる実力があるからって素直に百点を取るやつじゃない。
全部理解出来るからこそ不正解の答えを導き出せるのだから。
そうじゃなけりゃ選択問題なんて絶対どこかに正解が混ざってしまう。

『みんなして酷いなぁ。あれは僕の実力だよ。カンニングもなんにもしてない』
「貴様は昔からあまのじゃくだな」

ふふ、ふふふふふふふふ。
お互いを見遣って小さく笑いあう様子は不気味以外の何者でもない。
人吉を含めた三人は、全員引きつった笑顔を見せた。
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