いただき物

□イライラ
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イライライラ

この妙なイライラはどうすれば止まるんだ
誰か俺に教えてくれ




****


「『善吉ちゃん善吉ちゃん』」
「『喜界島さんって彼氏いるのかな』」

期待の目をして近づいてきた球磨川が言ったのはこんな言葉だった。
正直一瞬訳がわからなかったんだ。
こいつ、まさかこんなに惚れっぽかったなんてさ。
誰もそんなこと想像もしないだろ?

その時はとりあえず「知らねえ」って返しといたけど。

ああくそ。こんなことになるなんて。



誰かこのイライラを止めてくれよ




****

「『喜界島さんおはよう』」
「おはよう禊ちゃん!やっ、やだなあ…も、もがなちゃんでいいんだよ?」
「『…っ』」


朝の生徒会室で繰り広げられた光景がこれだ。
ここまでは、俺も似たような経験あるけどな。
喜界島の奇行に慣れてない球磨川は驚きと同時に顔を赤らめている。


まんざらでもない、っていうより、めちゃくちゃうれしそうだな。


そう思ったとき、なんかすげえイラッときたんだ。
その時は、見せつけやがって、とかそういう感情なんだろう、ってことで収めたが。

「『おっ、おはよ、……もっ、…もがな、ちゃん…』」
「えへへっ、おはよっ!禊ちゃん♪」

真っ赤な顔で笑いあう二人は、すごく初々しいカップルみたいで

「カッ!朝から見せつけてくれやがるぜ。俺もいること忘れないでくれよなー」
「あ、人吉くん、おはよう!」
「『善吉ちゃんいたの。ちっとも気づかなかったよごめんごめん』」

口をはさんだところで、この反応だ。
特に球磨川なんて、言外に随分はっきり邪魔扱いしてくれやがる。

しかも、今日は一日こうだったんだ。
ことあるごとに「禊ちゃん」「もがなちゃん」っつって二人にキャッキャしていた。
周りの人間なんていないような感じでさ。
昼飯も一緒で、休憩も一緒。まるで女子同士のつるみみてえにさ。
何度か声もかけたりしたが、全て球磨川に軽くあしらわれちまった。


ああもう。
イライラする。
だれかこのイライラを止めてくれよ







なんでイライラするかって?
だってそうだろ、四六時中イチャイチャされてみろよ、目の前で。
しかも、俺のこと邪魔扱いって、いくらなんでもそれはないだろ?

大体、「禊ちゃん」なんて呼ばれたくらいで―――





…あれ?おかしくねえか?
球磨川が喜界島に惚れたっぽいことはどうでもよくて
ただ俺は邪魔者扱いと目の前で見せつけられることが嫌だっただけで…


俺も、禊って呼んだら、あいつ、喜ぶだろうか

とか
そんなことは全く考えてない、はず、だ。


「……」






気が付くと、俺は二人の前に立っていた。

「どうしたの人吉君?」
喜界島がきょとんとした目を向けるが、おかまいなしに

「球磨川、ちょっと来いよ」

そう言って。球磨川の手を半ば無理やり引いた。








「『な、なんだよ善吉ちゃん。痛いんだけど』」
「……」

もう誰も残ってない教室に入ると、球磨川が些少の敵意が混じった困惑した目を俺に向ける。
そんな目でも、俺に向いてるということが少し心地いいと感じる自分に驚いた。
イライラもその自覚と一緒にスーッと引いていくのがわかる。

「『…もしかして、善吉ちゃんももがなちゃんが好きだったの?』」
「『僕はてっきり君はめだかちゃんひとす…うわっ』」

球磨川の言葉が詰まったのは、俺がやつの耳元に唇を寄せたからだ。

「…禊」

球磨川の耳に直接吹き込むように吐息ごと囁くと、球磨川の肩がびくりと揺れた。

「『な、ぜんきちちゃ、なにいって、』」
「禊。」

もう一度言うと、はっきりと頬を染めた。


「…そうか、俺、嫉妬してたみたいだ」
「『…えっ』」
「お前今日一日俺のこと見てないだろ」
「『いや、それはそうだけど』」
「俺だって、お前のこと「禊」って呼べるんだぜ」
「『…っ』」

いつのまにか腕の中に収めていた小さな体は、羞恥で更に小さくなっていた。

「『…善吉ちゃん、相手間違ってるんじゃないのかい』」
耳まで真っ赤に染まった顔を隠すようにうつむいたまま、ぽつりとつぶやく声。

「間違ってねえよ?「禊」なんて、俺の知ってる奴には一人しかいねえ」
「『…そうかもしれないけど…』」

球磨川はゆっくりと俯いてた頭を持ち上げ、俺と目線を合わせた。
その顔は、やっぱり耳と同じ色をしていて。

「『ずるいよ、善吉ちゃんは』」

そう、真っ赤な顔で俺をまっすぐみて言う球磨川の姿に、俺は完全に満足していた。

「いいだろ。…禊」

そう言うと球磨川の顔は更に真っ赤に染まり、泣きそうに歪んだ。

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