いただき物

□かわいい人!
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とある夏休みの夜のこと。

『ねぇ善吉ちゃん、一緒にDVD見ようよ』

球磨川がそう言ったときから、何となく嫌な予感はしてたんだ。
でも泊まりに来ている手前理由もなく断るのもなという常識的な遠慮が働いて、俺は気が付いたらおぉと返事をしていた。
……それを、今では深く後悔している。




――――球磨川が借りてきたのは、所謂スプラッター映画だった。
凶器を持った犯人が登場人物達に次々襲いかかり、画面からはひっきりなしに甲高い悲鳴が上がり、夥しい血が飛び散り、臓器が吹き飛ぶ。
俺はその残酷な描写に思わず青ざめて背筋を震わせたが、隣に座る球磨川は平気な顔をして画面を見つめ、あまつさえラズベリーソースのたっぷりかかったアイスを美味しそうに口に運んでいる。
……おいお前、こんな場面見ながらよくそんなもん食えるな。

『あっれ〜、もしかして善吉ちゃんこーゆーの駄目だった?』

俺の様子に気が付いた球磨川が、そんな風に声を掛けてくる。

あぁあぁ駄目だよ。だってこれ見てみろよ。いくらなんでも酷すぎねぇ?
どうしてただ平和に暮らしてた善良な家族に次々こんな理不尽なことが降りかかるんだ?ただ殺されるにしても普通こうはならねーよ。一体こいつらがこれだけされる何をしたって言うんだ?
そこんとこがさっぱり理解できない上、こんなもんを好き好んで見る奴の心理もわからねぇ。

『そう?僕はこーゆーの結構好きなんだけど……』
『それに映画だよ。実際人が死ぬわけじゃないんだし、娯楽は娯楽として楽しもうよ』

いやー、理解できねぇな……。

『ふふ、善吉ちゃん真っ青になっちゃって可愛い』
『ほら、怖かったら僕にしがみついてもいいんだぜ?』

そう言って差し出された腕には死んでもしがみつくかと思っていたが、スプラッター系のDVDが終わり、続いて入れられた都市伝説物のホラー映画を見始めた途端、俺の決心は脆く崩れ去った。

『ん、』
『……怖いの?善吉ちゃん』

俺は隣にいた球磨川の手をぎゅっと握り、必死で襲い来る恐怖と戦った。
てっきり球磨川にからかわれるかと思ったが、奴は少し微笑んだだけであとはTV画面に夢中になっていた。





『んーっ、面白かった!』

「………」

『あれ?善吉ちゃんは楽しくなかったの?』

ニヤニヤ笑いながら覗き込んで来る球磨川は、多分確信犯だ。
しかし俺は、映画が終わってエンドロールが流れる段階になると急激に球磨川の手を握ってしまった先程の自分の行動が恥ずかしくなり、情けなくて顔を上げられなかった。
なかなか顔を上げない俺に何を勘違いしたのか、球磨川は『大丈夫だよ、今夜は一緒に寝てあげるから』と安心させるような声音で呟いた。

「っはぁ?!」

『あれ?違うの?怖いから一緒に寝てほしいのかと思ったんだけど……』

きょとんと効果音が付きそうな顔で首を傾げる球磨川は、今自分が落とした爆弾発言に気付いていないようだ。

「いや……いいんだけど、今のテンションだと俺お前のこと襲っちまいそうなんだけど……」

正直、今の台詞はかなりキた。
これを天然で言ってんならかなり危険だぞ。

『いいよ』

しかし隣から聞こえたのは予想外の答えで。

『ってゆーかむしろ、今夜は僕が善吉ちゃんに奉仕してあげたいな』
『口にくわえたりしちゃ駄目……?』

そう言って自分の台詞に欲情したのか、もじもじと膝を擦り合わせながら顔を赤らめる球磨川は、それはもうデビル可愛かった。

……駄目なはずねーだろGJ俺!

と俺が現金にも今日一日の自分の行動を褒め称えたのは無理もない話だろう。








END

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