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□いつもの君がいい
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これはどういうことだろうか。
俺の脳が考えることを拒絶している。
ショックすぎて何も考えられないとかそういうことなのだろうか。
思えば俺は甘えていたのかもしれない。
いつもいつもついてきてくれるから大丈夫なのだと。
それはいつでも俺の傍にいて、それが当たり前なのだと。
でもそんな当たり前は、ふとしたことで崩れ去ってしまうのだ。

「ああすいません。俺今すげぇ忙しいんで、あとにしてもらえます?」

この氷点下な瞳。
心なしか色もくすんで、俺をまるで見下すように。
それも忙しいと言っても、先ほど仕事が全部終えたことを俺はばっちり見届けている。
何がいけなかったのだろうか。
何がこの優秀な右腕を怒らせてしまったのだろうか。
今日も仕事をせずに内緒で買ったゲームにかまけていたことだろうか。
最近ハマったオンラインゲームがばれたのだろうか。
微妙に目の前がかすんで見えるのは気のせいだろうか。

「十代目、今日の分の書類に目は通したんですか?溜められるとこっちもいい加減尻拭いが面倒なんですが」

本当に嫌われたのかな俺。
どうしよう、どうやって機嫌を取ればいいんだろう。
とりあえず何かプレゼントでも。
いやでも考えなしに薔薇とか渡しても今の彼には気味悪がられるだけだろう。
確信ある、だって俺はブラッドオブボンゴレ。

「用事はないんですか?なら俺は忙しいのでこれで」

ひょっとしてやきもち?
俺最近ちょっとモテるからなぁ。
俺だけの十代目だったのにって、それだったらかわいいよなぁ。
予想外の反応に獄寺君と一緒にいたらしいランボが両目をかっぴらいておろおろしている。
夫婦喧嘩にうろたえる子供のようだ。
夫婦・・・夫婦か・・・いいねそれ。
だが、ランボが見覚えのありすぎる煙に包まれたことで、そんな悠長に構えている暇がないことを知る。

「うわああああああ」

見慣れている姿よりずっと小さい影が大泣きしている。
どうやら十年前のランボはまた十四歳の獄寺君に締められたらしい。
大きなたんこぶが出来ているのを見て、獄寺君も俺もため息を吐く。
はずだった。

「おいアホ牛、いつまでも泣いてんじゃねぇよ」

驚きすぎて倒れそうになった。
あんなに五歳ランボを嫌っていた獄寺君が、まるで瓜に対するように。
まるで聖母のような笑顔でランボを抱きかかえたのだ。
背中をさすってやって、泣き止むのを待ってやっている。
どんな天変地異だ。

「ご、ごく、でらく・・・え?ちょ・・・」

まるで言語障害だ。
だがそれほどありえない事態である。
いつもは触るのだって嫌がって、飴を投げ捨てて放っておくくせに。
今は抱き上げて頭を撫でて背中をさすって。
ランボはすぐに泣き止んだ。
さすがにアホでも異常な事態を理解したのか、おかしな顔をしている。
目を合わせて二コリと笑う。

「頭痛いか?なんならシャマルに診させるぞ」

だんだん腹が立ってきた。
いつもならそのアホに対して行う行為は全部俺に行う行為のはずなのに。
ああああああ獄寺君は俺のものなのに。

「ちょ、ま、獄寺君!」
「なんですか十代目」

ギロリ。
酷く睨まれた。
獄寺君にこんなに拒絶されたのは初めてだ。
睨まれたのなんか十年ぶりだ。
なんか間違った方向に進みそうだ。
ショックなのに少しうれしく感じている俺はもしかしたらMなのかもしれない。
恍惚とでも言えそうな気分と転落真っ最中の機嫌で複雑な心境な俺を尻目に、獄寺君の背中が小さくなっていた。

「あ、え嘘いつのまに」
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