+ THE BASKETBALL WHICH KUROKO PLAYS +

「だって好きになっちゃったんだもん」
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「すみませーん。抹茶ソフトひとつください」


「毎度どうも」




夏休みが始まったものの、毎日夏期講習のために学校へ通っている。
そしてその帰り道、毎日ココの抹茶ソフトを食べるのが日課になっていた。


おいしいんだよねー。


店先のベンチに腰かけて、傘の下で日陰を楽しむ。




しあわせ。






「おいしそうっスね」


「あ...」


半分ほど食べたところで、目の前に影が出来た。




この背の高さと声は...同じクラスの黄瀬くん。
いつ見ても大きいな...。


でも、おかげで前に影が出来て涼しいけど。




「部活帰り?」


「そうっス。補習っスか?」


「黄瀬くんと一緒にしないでよ。夏期講習取ってるの」


断りもなくわたしの隣に座る彼。
ふわりと鼻に届いた香りは、部活後のシャワーで使ったシャンプーかな。




「勉強好きなんスか?夏休みの宿題、写させてもらっていいっスか?」


「ダメですー。自分でやらなきゃ身につかないよ」




そうっスよね、と苦笑いを浮かべる彼。
でも、1年生でバスケ部のレギュラーでモデルの仕事もこなして、その上宿題ってかなり大変だよね。
それなのにいつも楽しそうで、腐ってるようすもなくて、えらいよね。




「それに」


「ん?」


「黄瀬くんなら、女の子が喜んで写させてくれるんじゃない?」


モテモテだもんね。
試合はもちろん、普通の練習のときでさえすごいギャラリーを抱えている彼。


わたしもお友だちに誘われて見に行ったことあるけど、遠くてよく見えなかったんだよね。




「目の前にも、女の子いるんスけど」


「っ...え?」


ぼうっと記憶をさ迷っていたら、突然近過ぎる距離に黄瀬くんの整った顔が現れた。


「ほら、ココにいるっスよ」


大きな手、長い指先が鼻先でくるくると円を描く。




引き込まれそう   




夏の暑さとは違う熱が首筋から耳、頬から額にまで駆け上がる。


これって...現役モデルに見詰められてるってだけじゃ説明出来ない。




「ダダ...っダメだってば!そんなこと言っても、宿題は...」
自分でやらなきゃ、という正論は口の中で間誤付いた。


今の問題はそんなことじゃなくて、このゼロに近い彼との距離。




「もーらいっ!」




え...!?


あっ!!


緊張が解けたあとに見えたのは、がっつり減った抹茶ソフト。
わたしが彼の顔に気を取られているあいだに、大きく一口奪われていた。




「アーッ!!」


「うまかったっス」


わたしの抹茶ソフト...。
これだけを楽しみに辛い夏期講習頑張ったのに。




「ひどい...。鬼、悪魔...」


「ええっ!?そんなに?」


「顔、ぐーで殴っていい?」


「それは...」
一応モデルなんで顔はカンベンして、と眉尻を下げる彼。




「じゃあ、これ...お詫びっスよ」


にぃっと上がる口角に、ドキリと跳ね上がる心臓は、落ち着く前に更に強くバウンドする。




ウソ...でしょ?
これって   キス!?


ほんの一瞬のことだったけど、確かに触れ合った唇。
抹茶ソフトの味がしたから、間違いなかった。




何か言ってやりたいのに、言葉にならない。
詰まったように声が出なくて、ドラムロールのように鳴り響く心臓を落ち着かせるのが精一杯。




あー...だめ。
黄瀬くんにとって、こんなのただの遊びなんだから。
一々わたしが反応してたら、面白がられてからかわれるだけ。


でも...これ、わたしのファーストキスだったりするんだけど...。




「おいしそうだったから」


「...え?」


「言ったっスよね?おいしそうって、最初に」




そうだけど、それ、抹茶ソフトのことだと思ったんだけど...。




「この唇のこと、言ったんスよ」


「...ばか」


「別に勢いでこんなことしたんじゃないっスよ」


「じゃあ...」
なんで?と聞きかけて、期待している自分に気付いた。




「いや...結構アピールしてたんスけどねぇ」


「何を?」


「これだもんなぁ...」


「何?」


「鈍感過ぎっスよ」


「わたしが!?」


「入学してから、ずっとアピールしてたんスけど」


いつの間にか奪われていた抹茶ソフト。
黄瀬くんの手に収まると、コーンも小さく見える。


「オレのこと、どう思ってるんスか?」


「え...えと」


減っていくソフトクリームに気を取られていて、すぐに答えられなかった。
それに、そんなに簡単に答えられる質問でもなかった。




しばらく考えてから、最初に頭に浮かんだことを伝える。


「チャラい」


「ひどっ!!」


「女の子にきゃあきゃあ言われてるなぁって思ってた」


「それだけっスか?」
あんなにアピってたの、何だったんスかーと項垂れる黄瀬くん。




「...なんか、ごめんね」


「いいっス。謝られると余計に辛いっス」


「なんて言うか...ね?」




恥ずかしいけど、こんなに落ち込んでいる黄瀬くんを放っておけなくて。


わたしは、ずっと抱いていた気持ちを伝えた。




入学する前から知っていた有名人。
1年生で強豪バスケ部のレギュラー、しかもモデル。


クラスどころか学校中、他校にもファンがいるほどの人気者で。


まさかって思ってた。




入学してすぐ、名前を聞いてくれたことも憶えてる。
ふと目が合うことが多かったことも、気付いてた。


でも、気のせいだと思っていたし、わたしの勘違いだと思っていた。


だって、有り得ないから。




一度見に行った練習のとき、わたしに向けて手を振ってくれたんだと思ってしまった。
だって、彼の目にはわたしが映っていたから。


でも、遠くて確信を得られなかった。
すぐに笠松先輩に蹴っ飛ばされて、手を振ってくれなくなったし。




それがもし、黄瀬くんの言うアピールなら、わたしが鈍感なんじゃなくて。
黄瀬くんの日頃の行動と、運の悪さのせいなんだと思う。




「それも、微妙に傷付くっス」


「...ごめんなさい」


「いや、いいっスよ。」




抹茶ソフトがなくなると、えいと勢いよく立ち上がった黄瀬くん。
わたしもつられて立ち上がっていた。




「んっ...」


見上げるほど高い位置にある彼の顔を見上げたとき、またあの感触。




唇に触れる、柔らかい熱。


今度は抹茶の味もミルクの味もしなくて、知らなかった...彼の唇そのもの。




2回目のキス...これは、勢いじゃないよね?




離れていく黄瀬くんの目を見詰めるわたしの目は、きっとあからさまに不安を浮かべていたんだと思う。
自分でも分かる。




「そんな目...しないで欲しいっス」


「ごめん...」


「冗談でも勢いでもないんスよ。本気で...」


「うん」


「大好きっス」




わたしに背を合わせて屈んでくれて、じっと見詰めてくれる。
わたし以外の誰も、見ていない。


だから、わたしも   




ただ、言葉にするにはまだ恥ずかしくて、こくりと頷くことしか出来なかった。




それでも、黄瀬くんは満足してくれたようで、ニッコリと満面の笑顔を浮かべてくれた。











「...ねぇ、黄瀬くん?」


お店を出て少し歩いたところで、下から呼びかける。


「何スか?」


「改めて見ると、ほんと背高いね」


「今更っスか...」


「首痛くなりそ...」




平均よりも小さめのわたし。
平均よりはるかに高い黄瀬くん。


うまくいくのかな...。




あまりに違い過ぎて...背だけじゃなくて、いろいろと。
不安になる。




「大丈夫っスよ!オレが合わせるんで」


「黄瀬くん...」


「見上げるのが辛かったら、オレが屈むっス」


「優しいんだね」




不器用ながらも笑顔を返せば、倍以上の笑顔で返してくれる。




「全然平気っスよ。そんなことくらい。それでうまく行くんなら、努力は惜しまないっスから」




何もしなくても、何でも人並み以上にこなして。
女の子にもすごくモテて。


それでも、わたしのために努力をしてくれるって言う笑顔には、全くウソがなかった。




わたしも、努力しよう。




ずっとアピールしてくれてたって言う彼に、まずはお礼を。


そっと、わたしから手を繋いでみた。





end.

お粗末さまでした(  ̄艸 ̄)

日記に載せたお話の転載デス


2012.07.18 さくら
 

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