小説(BL版権)
□ヒミツの掲示板
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待つ事はあまり好きではない
出来れば貴方と一緒に行きたかったな………
俺は昔から云いたい事が云えない性格だった。
◇ヒミツの掲示板◇
いい子に待つように、と言い残し奥宮さんは何処かに行ってしまった。
奥宮さんを待つ間することもなかった。ふと庭に目をやると寂しい気持ちになった。
鷹統家の庭はいつでも綺麗に手入れが行き届いていた。
きっとこの広大な庭には、幾人もの専属庭師がいるのだろう。
木々が生長すると庭師が成長した分だけ切り落とす。
病気にかかり、枯れてしまいそうになればその原因を調べそれに似合った処理を施す。
春には綺麗な華を、夏には青々とした葉を、秋には紅葉を、冬は寂しげに葉を落とす。
喜怒哀楽そのもののようだ。
早く戻って来ないかな―――奥宮さん…。
椅子から立ち上がりガラス戸へと向かう。
季節は秋の終わり頃
庭にある木々には葉がさほど付いておらず、風が吹く度残り少ない葉がゆらゆらと揺れとんでいってしまいそうだ。
カラ カラ カラ カラ
戸を開けると当たり前のように冷たい風が部屋に入りこんできた。
この時期にしては珍しく風は冷い。
生憎ながら俺の服装は決して暖かいと云える物ではなく、むしろ軽服で少し肌寒い。
部屋に戻って上着の一枚でも取りに行きたい所だったが―――
《良い子で待っているんだよ》
奥宮の言葉を思い出し断念。
再び窓の外に目を戻す。
風に吹かれる木の葉達は悲しそうにダンスをしている。
ダンスはダンスでもラストダンス。
いつ吹き飛ばされるかも判らない不安定な状況なのだから…。
ほら、また一枚地面へと落ちていった。
《貴方は本当にあの黒埼家の子供なの?》
《全然似てないのねぇ》
《お前はどうして父さんの云う事が聞けないんだっ》
《愛人の子のくせに》
《サギリの方が―――》
押し寄せる言葉の刃。どれだけ俺を苦しめたものか…
思い返すだけで胸が痛くなる。
みんな俺の存在を認めてくれていないのではないか、と嘆き続けたあの頃。
ビュウ、と風がよりいっそう激しく吹く。
寒かった…それ以上に心が寒かった。
ガラス戸を閉め、ため息をもう一つ。
ため息が当たった部分のガラスは白く曇る。
指を使い無意識に文字を描いていた。
自分でも驚いた。俺の中であの人の存在はここまで大きくなっているんだろうか?
ガラスに描いたその“名前”は徐々に薄くなって消えていく。
安心する反面心ぼそくもあった。