ペルソナ3

□平行
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滅多なことでは驚かない、はずであった。朝目覚めたらいつも右目にかかっている前髪がなくて、おかしいと前屈みに起き上がった時である。
「胸、」
大きいに越したことはないが、男の自分には有り得ないもの、あってはならないものがついていた。次に鏡を睨む。自分は、
「おん、な」
女の姿をしていた。赤眼で癖のある髪の毛は胸まで長く、茶色い。部屋は物がやや散乱しており、通学鞄からは女物の小物が顔を出している。紛れも無い、女の部屋だ。
自分は暫く放心状態だったが、身体がするべきことを覚えているようで、勝手に身支度を始め、30分かかってようやく部屋から出た。すると向かいの部屋からゆかりが出てきて、笑顔で学校に行こうと誘う。自分は少し戸惑ってから頷くと、ゆかりは朝食を食べに自分の手を引き、ラウンジへと向かった。
朝食を軽く済ませた自分とゆかりはいつも通り学校に向かうが、自分が女であること以外は昨日と全く同じであった。授業も、環境も、変わらない。ただ違ったことは順平が馴れ馴れしくなり、部活も剣道からテニスに変わったということだ。テニスは『なんとなく』で過ごせたが、順平は一緒に帰ろうとしつこかった。自分が面倒そうに今日は部活があるから、と適当にあしらったら順平は渋々校門へと歩いていく。その姿を見たゆかりは、『いつも』断らないのに珍しいね、と皮肉を混めて喋り、自分は誤魔化すために困ったように笑った。
寮に帰ってからはもっと不思議であった。玄関をくぐると荒垣さんが料理をしており、気がつくとその姿に見取れていたからだ。自分は女であっても男だ、そう頭を振れば振るほど、自分が男であったことを忘れてしまいそうになる。今日は疲れた。晩飯は要らないです、荒垣さんに伝えると彼は怪訝そうに顔を顰めた。なにか言った様だが、自分は今、それどころではない。
寝れば治る、そう思い込む。これは夢なのだ、こんな、疲れる一日は面倒過ぎる。毎晩している勉強を今日だけしないで、電気を消し、ベッドに潜る。やがて睡魔が襲う―――。

「もう寝ちゃうの、勿体ないね。珍しい体験だったのに」

あの少年の声がした。
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