頂きもの

□永遠が還る場所
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「なぁリン、俺達って死んだら何処に還るんだろうな」



ただ隔てる壁も無く、
限りなく続く真っ白な空間の中で
私はレンにそう問われた。

錯乱したこの夢の中で
私にそう問うたレンは本物のレン?
それとも私の夢が生み出した産物?

何処までが現実で何処までが虚像か、
その境目はよく分からなくなって。

見せ掛けの夢の中で私は問われた質問に答えることも無くただ静かに目を瞑った。



(早く起きなきゃ…もう、時間が無い)







「…ん、」



薄手の毛布を軽く蹴飛ばして身体を捩る。
すると隣から聞こえて来る微かな唸り声。



「う…毛布蹴んなよ寒い…」



…ああ、そっか、
私昨日レンと一緒に寝るって駄々こねたんだっけ。
目ぇ覚めちゃったじゃんなんて聞こえてきたけどとりあえず…無視しよう。



「……」

「……なぁリン」

「…え?」

「俺達ってさ、死んだら何処に還ると思う?」

「…な!?」



夢の中のレンと同じことを言う現実のレンに私は思わず大きな一声を上げる。



「…そ、そんなに驚くことか?」

「え、いや、その、違うけど…うん…」

「はは、文章になってないって…」



渇いた笑いをして言うレン。
その表情に私は若干の憂いを感じてしまって。



「話変わるけどさ、リン」

「…な、なに?」

「俺達こうやって寄り添って寝たの久し振りだよな」

「そう…だね」

「昨日、リンが俺と一緒に寝たいって言ってくれたの、嬉しかったよ」

「うん…」

「リンが言わなかったら俺から言ってたかもなー、あはは、俺らしくないや」

「…ッ、ねぇレン、無理して笑わなくて良いんだよ…?」

「ああ…うん、バレた?ほんっと昔から俺ってリンには嘘、つけないな…」



苦しそうに哀しそうに困ったように、
形どられてるレンの作り笑い。
それはいつもみたいに柔らかく笑う暖かい笑顔じゃなくて、誰か嫌いな人に向ける下手な愛想笑いの様で。
どうしてなのか、って言うと私はその理由を知っているのだけれど。
ただ、現実を受け入れたくないからその理由を口にしないだけで。



「…あーあ、本当ごめんな?なんて…謝ったって何も意味無いけどさ」

「…謝ること、無いよ。誰のせいでもないもの」

「うん…、そういえばさ、ミク姉達にはバレてないよな?」

「うん、大丈夫、言ってないよ…」

「ん、ありがと」



そう言ってふわっと笑うレン。
ああ、その笑い方。
私はそれを望んだんだ。

もう二度と見ることは無いと思ってたその笑顔。
最期に見れて良かった…



「…もう、時間だな」

「レ、ン…!!」

「ちょ、泣くなって…!」



そう言ったレンも泣いていて。
朝方のカーテンから零れる微かな光に照らされた私達の涙はまるで宝石の様に煌めいていた。



「…ミク姉達には俺が旅に出ましたーなんて風に言っといてよ」

「なにそれ、絶対バレちゃうよ」

「はは、ですよねー」



今以上に、
こんなにも他愛のない会話が幸せだと思えたことが果たしてあったか。

今だからこそ思えるこの時間。
日常がこれ程にも喜ばしく感じるだなんて。

そう、それはきっとレンが今日消えてしまうからなのだろう。



数日前、レン本人から聞かされた哀しい現状。


(俺、最近な、音が聴こえないんだ、)

(自分の耳にノイズが入って来るみたいでさ)

(歌も上手く、歌えないんだ)

(歌おうとすると首が締められてるみたいに息苦しくなって)

(頭が割れるぐらいに痛くなる)

(俺、もしかしたら壊れたのかな)

(壊れ…ちゃうのかな)



そう言っていたレンの酷く絶望していた顔が私の脳裏に焼き付いて離れてくれない。



(俺がもし、消えたら)

(このことは皆に言わないでくれよな)

(だって哀しませたくないじゃん?)

(本当は一番哀しませたくないのはリンだけどさ)

(言わないで消えるよりかは言ってから消えた方が良いかなと思って)

(ごめんな、リン、お前を哀しませたくなかったのにな)

(リンとは喧嘩してばっかだったけど、楽しかったよ)

(ずっと一緒に居れて、嬉しかったよ)

(毎日が、幸せだったよ)

(俺が消えても泣くなよ?リンは昔から泣き虫だからなー)

(でも、ずっとずっと、俺のこと)



















忘れないでいて





















「先、逝くな?」




「うん、先に逝って待ってて…」




「ん、待ってる…ずっと待ってるよ…」





嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
どうして、どうしてレンなの?
どうしてレンが消えちゃうの?

強がって言った私の発言と比例して私の目からは涙が零れでた。



「駄目…嫌だよ…、置いてかないで、消えないで、ずっとずっと傍にいてよ…!!!」

「…今なら、言える気がする…」

「嫌…ッ、嫌だ…嫌嫌嫌!!消えないで…逝かないでレン…!!!」

「リン…俺な、ずっと言いたくても、言えなかった言葉があるんだ…」

「…レン、レン駄目…!レン…ッ!!」





























愛してるよ、リン

























「嫌ぁぁぁぁぁああッ!!!!!!」










永遠が還る場所



(ああ、何処までが現実で何処までが虚像?)

(境界線が見つからない、いや、元から無かったのかもしれない)

(さようなら、私も貴方を愛していました)
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