捧げ文

□ウワサ
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「…君がそう思うなら、そう思えばいい」

目の前にいる相手が低く、割と小さめに発した言葉は人通りの少ない静かな廊下に響き渡る。その曖昧な言葉に俺はピクリと肩を震わせると、目の前にいる人物を見つめた。正確に言えば睨んでいる。

本当は立場を考えれば、この行動と態度は決してあってはならないことだ。けれど先ほどまでの不安が怒りに代わり、それに支配された頭は冷静さに欠けて判断力を失う。今の俺は正にその状態で、立場など頭にない。

「…認めるんですか?」
「…さぁ、どうだろう?」

尋ねても明確な答えは貰えず内心苛立ちが募る。それはやはり、思考がマイナスへと足を進めて最悪の答えしか導かないからだろう。猊下はYESともNOとも言っていないのに、マイナス思考にしかならないのは結局のところ自信がないからだ。

「第一、それを聞いて何がしたいのさ。もし本当ならどうすの?」

はぁ、とわざとらしく大きく溜息をつくと猊下はこちらを睨むように見上げてきた。その瞳に俺は答えに詰まる。見たこともない冷たさを帯びた瞳はまるで敵を見るかのような、そんな瞳だった。

「別れるの?…あぁ、それともお仕置きとかベタな展開かな?」
「…なっ!?」
「勘弁してよ。僕は君のモノじゃない」

反論を述べる前に猊下が俺の胸ぐらを掴み、ぐぃっと引き寄せるとピシャリと言い放った。その言葉に言おうとしていたことも、不安や怒りさえ風船の空気が抜けてくように薄れていったのがわかった。

"君のモノじゃない"

その言葉が頭の中を反芻し支配すると、代わりに思考を満たしたのは悲しみと恥ずかしさだけだった。

「…っ、すみません」

どうにかグルグルと回る思考を鎮めながら、何に対しての謝罪なのかわからないままに言葉を小さく漏らした俺は踵を返す。ここにいることが居た堪れなくなって、早く立ち去りたい気持ちでいっぱいになっていた。




「……どうして、あんな事を聞いたの?」

数歩、猊下から足を進めたところで聞き取れるかという程度の音量で発せられた言葉に、俺は思わず立ち止まってしまった。その行動に僅かに驚きを感じつつも、やはり歩が止まってしまっただけで後ろを振り向くことも猊下の言葉に返事を
することも、そして再び前へ足を進めることも出来ない。ただ立ち止まっていた。

俺が動けないでいると、後ろに気配を感じて袖を掴まれるのがわかった。そのまま猊下は俺の背に頭をつけるように寄りかかる。

「そういうことを聞くのは…それ相応のリスクがあるんだよ」


もし本当でも
もし誤解でも
2人の間には亀裂が起きる…


その言葉に俺はゆっくりと後ろを向くと猊下は手を離して身を一歩後退させ、俺を見上げてきた。泣きそうな、何かに耐えるような、そんな表情をしている。

「…信じてほしかったな。不安だったのはわかるけど」

そのまま笑う猊下に、俺は胸が痛くなった。思わず手を伸ばして触れようとするのを留めて、グッと握り締めると俯く。

「…すみません」
「うん」
「信じられなくて、すみません」
「…うん。僕もウェラー卿の立場なら不安になる。それだけ好きだから」

猊下は俺に近づくて両腕を伸ばして俺の首の後ろに回し、クロスさせてぐっと顔を引き寄せる。

「だから僕も酷いこと言って、ごめんなさい」

それに答えるように俺もゆっくりと腕を回す。隙間がなくなるほど密接した体からは暖かさと心地よい鼓動が聞こえてくる。俺はそれを噛み締めるように再度、猊下を包む腕を強めた。



終わり。





●アイコ様へ。
大変お待たせしましたιコンムラで嫉妬話、コン様激怒!とのことで。

いろいろとあやふやーな話になってしまいましたが、解説しないと話分からなかったら言って下さいι恥を忍んで解説します←

とりあえず私の中のコン様が激怒しない方なので難産でした。でもいい機会を頂きました!シリアスは書いてて楽しかったです(笑)

ではアイコ様のみお持ち帰りも返品も、そして苦情等も受け付けます☆
 

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