マ王

□caller-訪問者-
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僕たちが会えるのは地が闇に包まれ、月が出ている時間だけ。



【caller-訪問者-】



淡い光を放つ眞王廟の灯りが、自分の手を照らす。手袋も何もしていない手は、寒さにやられて真っ赤だ。痛みも感覚もなくなってきたので、僕は防衛策として手に自分の息を吐いた。この息の白さからも、きっと近々眞魔国も雪に覆われるのだろう。地球のように…


「猊下」


そんな考えを巡らせていると、不意にこちらでの僕のもう一つの名を呼ばれた。その声は潜められていて。でも、静かな此処ではとても響いて僕の脳へ届く。
僕は声のする方へと視線を向けると自然と笑みをこぼし相手の名を呟いた。


「ウェラー卿」



ウェラー卿は足音もたてずに僕の方へと駆け寄ると苦笑を漏らした。


「中で待ってて下さればよかったのに…寒かったでしょう?」


彼はそっと右手を差し出すと僕の頬に手をそえる。その手は僕の頬よりは暖かかったけれど、やっぱり冷たい。きっと急いできてくれたのだろう。体温は少し上昇しているけど、急いできてくれたからこそ、寒さと風で手が冷えたのが容易にわかった。


「いつから外にいたんですか?こんなに冷えて…」


その言葉に彼を見ると誰かさんのように眉間に皺が寄った姿がいた。僕はクスリと軽く笑い、瞳を閉じると彼の手に自分の手を重ねる。


「君と同じだから」
「え?」
「僕も少しでも君に、早く会いたかったんだ。だから中でなんて待ってられなかったんだよ」


そう言いまた彼を見ると、彼は嬉しそうに微笑んでいた。何ともわかりやすい人だな、と心の中で笑うと重ねていた彼の手をとり眞王廟へと招く。


「さぁ、君だって寒いだろう?中に入って」


そうですね、と彼は言うと僕に手を引かれながら眞王廟へと足を進めた。






僕たちが"恋人"として会えるのは、地が闇に包まれ月が出ている時間だけ...


end
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