宝物(ブック)

□扉を開ければ
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扉を開ければ、そこは異世界だった。

・・・なんの小説だったか映画だったか定かではないが、そんなナレーションが脳内を流れた。


「待ちくたびれたぞ。」


バスローブを一枚羽織り、いつになく妖艶な微笑みを携えた恋人。
濡れた黒髪も。
湯に当たり染まった肌も。
細められた深い紫の瞳も。
愛しい恋人のものに違いないのに。


目の前の少年が放つ雰囲気は、平素自分が愛する彼のものとは似て非なるものだ。



ふふ、と意味ありげに笑い、ユーリの首を捕まえた。
背伸びをして、唇を合わせる。
自らキスをすることすら、恐らく初めてだ。
まして舌を挿し込み、歯列を辿ってくるなんて。



「・・・随分丁重なもてなしだな。」


混乱する心を悟られないようにしながら、少年に向かい囁いた。


「言っただろう?待ちくたびれた、と。」



シュル。

バスローブの合わせ目をほどき、肩から掛けているだけにずらす。


「変なもんでも食ったんじゃねえか?」



怪しい。


怪しすぎる。



だって、恥ずかしそうに身を捩るあのリオンじゃない。



「失礼な奴だ。・・・まあ、良いがな。」


どさ、とユーリをベッドに沈める。


悪戯をする子供のような表情に、目眩すら覚えた。



空いた胸元から手を差し入れ、指で鎖骨や脇腹に擦りあげる。




「・・・リオン、だよな?」

つい、今更なことを聞いてしまう。
少しむっとした顔で、「他に誰がいるんだ」と睨まれた。



小さな唇から赤い舌を覗かせて、ユーリの肌を舐め上げる。




ちり。

痛みが走って、多分そこは暫く痣になるような気がした。



いつもは頼んだってやってくれない行為。


いや、勿論それも一興な訳で、こんなに積極的に攻められてもと、どこか身の危険を感じる。





どこまでするのだろうか。
流れに身を任せてみた。


「(エロい・・・)」


ユーリの上に跨がって、服を脱がせながら唇を這わせる。
臍や、肋骨、胸骨、窪んだところをより丹念に。



舐める、なんて気持ち悪い行為のはずなのに、相手が好きというだけでどうしてこうも違うのだろう。

それが、何時もと違う彼であっても。



いつかの間にか彼の唇はユーリ自身に到達していた。





キスのときも思ったが、いつもより格段に巧い。


慣れている、といった方が正しいだろうか。


いつもの辿々しいそれではない。
次に何をするか手に取るように感じられる行為なのだが。

「(それでも頑張ってくれるのが可愛いんだけどな。)」



まるで別の生き物のような。
適度に吸い上げたり、軽く歯を当ててみたり、唾液を絡めながら、指で袋の部分を弄ぶ。


躯というのは不思議なもので。
頭ではいつものリオンを浮かべるのに、今の行為を享受してしまっている。


本人なはずなのに、浮気しているような気分だった。

「っく、――!!」


きつく吸われ、呆気なく達してしまった。

更に愉快そうに目を細める。

白濁を薄く開いた口から見せ、直後音を立てて飲み込む。



不快そうな表情など微塵も見せず。
むしろ恍惚とした表情で。



どくん。
放ったぱかりだというのに、再び硬度を取り戻しかけていた。



「そうこなくてはな。」


手で硬度を高め、そのまま後孔を宛がう。

ゆっくりと腰を下ろした。

「ン、・・・っ」

漏れる声が艶めかしい。

自ら腰を動かし、快感を貪る。

蕩けきった表情、高く上がる嬌声。


「(リオン、悪い。)」



彼に心から謝罪して、ユーリも目の前の快楽に負けた。













・・・よく考えれば、当たり前だ。

ここは泊まるために借りた宿。

リオンはヒューネガルドで城に泊まり込み。

居るわけがない。




「夢、か?」



目が覚めたときは誰もいず、ただ一つ首筋の赤い痕だけが残されていた。









――・・・


「どうした、リオン、機嫌が良いな。」

「・・・なんでもありません、フィンレイ様。」




「(誰かは知らんが、昨日のやつは具合がよかった。)」
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