宝物(ブック)
□裏と表
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表と裏
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「いい加減にしろ!」
「ふん…」
少年の怒鳴り声が響く。
周りの人間はああ、またか…と思いながら声の発生源である少年達を眺め始めた。
自由のギルド『アドリビトム』の拠点であるバンエルティア号では、いくつか名物となっているものがある。
一つは、甘党たちによるおやつ争奪戦。
もう一つはロックスと女性陣(特にアンジュ)の、ダイエットについての攻防。
そして、リオン・マグナスとジューダス、よく似た2人の言い争いである。
「だからなぜ仮面を外さない!そんな仮面、いらないだろう!?」
「…必要だから付けているんだ。」
「少しくらいはずしてもいいだろう!?」
言い争い、というよりはリオンがジューダスに一方的に突っかかっているように見えるそれ。
今回の原因はどうやら仮面についてのことらしいが、毎回言い争いの内容が違うのだから、それだけ話すことがあるなんて本当は仲が良いのでは?とつい疑ってしまう。…が、実際仲が良いなんてことは無く、時には本気で相手に斬りかかることもあるくらい関係は最悪だ。
余談だが、例え2人が険悪な雰囲気を出していても周りは誰も止めたりはしない。…何故なら、例え誰かが2人を止めた場合、揃って斬りかかってくるからである。
いつの間にかギルドのメンバーが勢揃いしたホールでは呆れた目で見守る数人を除いて、どちらが言い争いに勝つかを賭け始める者まで出てきた。
「今回はまた盛大な言い争いだね〜」
「ジューダスのつけてる仮面についてみたいだよ」
「ああ…あれは俺らも気になるわ」
口々に言う周りに目を向けることも無く2人の口喧嘩(主にリオン)はヒートアップしていく。
「…どうせ素顔を隠さなくてはならないくらい、ろくでもないことをしてきたんだろう!」
リオンがそう言ったときだった。
今まで表情を変えなかったジューダスが、僅かに悲しげに顔を歪めたのは。
それに気づいたのはごく一部で、周りは空気が変わったことにだけ気づき口を閉じた。
「ちょっ…ストップストップ!!」
遠巻きに2人の口喧嘩を見ていたカイル、ロニ、リアラの3人は、慌てたようにジューダスの前にでた。
「リオンさん!ジューダスにも事情があるんだよ!」
「ふんっ…僕には関係ないな」
「てめぇ…!言って良いことと悪いことがあるだろ!」
「ロニ、落ち着いて!」
今にもリオンに飛びかかりそうなロニをリアラが宥める。
一方カイルは、やけに静かなジューダスをチラチラと気にしながらリオンの説得に回っていた。
「あの、リオンさん、ジューダスは………「カイル」…ジューダス?」
言葉を遮って声をかけたジューダスにカイルは首を傾げた。
「…そいつと一度ゆっくり話し合う。暫く僕の部屋に近づくな。」
ジューダスの表情は見えない。
カイルは冷や汗が背中を伝うのを感じながら、こくこくと首を縦に振った。心なしか周りに居るロニ達の顔が青い気がする。
「…行くぞ」
ジューダスはそのまま固まっていたリオンの腕を掴みホールを出て行った。
ホールの中に残った者達の間には、微妙な空気が流れる。
ポツリ、ロニが呟いた。
「あいつがキレるなんて………リオンのやつ大丈夫か…?」
リオンとあまり仲のよくないロニがリオンの心配をしたことで、周りに居た全員の顔色が更に悪くなった。
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