企画小説
□伝える言葉と伝わる想い
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願ったたった二つのものを手に入れたリオンは、城下町を見渡せる城の庭園に来ていた。
そよ風に髪が弄ばれる中、リオンの表情は少し浮かなかった。
そんなリオンを心配して、ソーディアン・シャルティエが声を掛けた。
『坊ちゃん、どうかしましたか?』
「あ、いや…、少し考え事していただけだ」
『僕でよければ、話して下さいませんか?』
リオンは一瞬躊躇ったが、周りに人の気配が無いのを確認すると、ぽつぽつと話始めた。
「僕は二つのものを手に入れることが出来て、本当に嬉しいんだ」
『坊ちゃん頑張りましたもんね!でも、どうしてそんなに浮かない顔をするんですか?』
シャルティエに問われて、ますます浮かない表情を浮かべる。
「これで、いいんだろうか?と疑問に思うんだ」
『どういうことですか?』
「何か、大切なものを見落としている様な気がしてならないんだ」
『大切なもの、ですか?』
リオンは軽く相槌を打つと、グレバムに言われた言葉を思い出す。
「グレバムが、僕に言ったんだ。《何も知らされていない》とな」
『あれはグレバムが黒幕だったし、あいつの言うことを信じてはいけません!』
「それは分かっている。だが、あの旅が終わってから、時折、考えてしまうんだ」
グレバムはリオンが知らないことを傑作だと言って笑った。
知らないということは、自らも知ることが出来たということなのだ。
「旅から戻ってきて、僕は順調だ。欲しかったものも手に入った。だけど、それが嵐の前の静けさに感じるんだ」
『坊ちゃん……』
「カルバレイスの時もそうだったが、また、何か大きな決断を迫られるような気がするんだ」
『大丈夫ですよ、坊ちゃん!あの時も言いましたが、僕がいるじゃないですか!』
シャルティエは自身のレンズを光らせて、励ましをアピールする。
『選択が間違ったら、僕が一緒に背負います!それに、間違ってもいいじゃないですか!結果的に間違いであっても、後悔しなければそれでいいじゃないですか!』
「後悔をしない、か…」
『そうですよ!僕なんて、後悔ばっかりでしたよ?後悔しても良いことなんてなかったし、余計悪循環になっていってましたからね…』
苦笑しながら言うが、それがどこか説得力があり、リオンの悩みも少しずつ晴れていく。
「妙に説得力を感じるな」
『放っておいて下さい!どうせ、昔の僕は根暗で根性が曲がってましたよ!』
「根性が曲がってるのは、今でも変わらないだろう?」
『あー!それを坊ちゃんが言いますか?!坊ちゃんだって、充分曲がってますよ!』
「それは仕方ないだろ。生まれたときから、誰かさんがずっと側にいたからな」
しばしの沈黙後、2人はくすくすと笑った。
こんなに本音も冗談も言い合えるのは、リオンにとってシャルティエだけだった。
『坊ちゃん、気にしちゃダメです!今の状態が、何かが起こる前兆だったとしても、欲しかったものが手に入ったんだから、いいじゃないですか!ね?』
「それを、手放さなくてはいけなくなったとしてもか?」
『はい。手放して、後悔しなければそれでいいと思います。それに、手放すということはそれだけの決断をしたということです。絶対に、後悔はないと思いますよ』
「そうか。なら、僕が手放しそうになったら、シャルは全力で止めてくれ」
『止めるんですか?』
「そうだ。その時は、きっと僕は周りが見えていないだろう。だから、僕を止めるのは、シャルの役目だ」
『分かりました……』
すると、今度はシャルティエの方が拗ねたような声を出した。
「どうした?」
『まぁ、別にいいんですけど…それって、やっぱりマリアンが一番ってことですよね?』
思わず出したシャルティエの本音に、一瞬きょとんとした表情を見せたが、次には可笑しそうに笑いだした。
『どうして、笑うんですか!僕には坊ちゃんだけなんですよ!酷いじゃないですか!』
シャルティエは憤慨する。
それを宥めるように、リオンは首を振った。
「違う。シャル、勘違いしている」
『勘違い?どこがどう勘違いなんですか?』
リオンはシャルティエに微笑み、そっとレンズを撫でると言葉を紡いだ。
その言葉に、シャルティエは返す言葉がなかなか見つからなかった。
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