企画小説

□伝える言葉と伝わる想い
1ページ/3ページ





願ったたった二つのものを手に入れたリオンは、城下町を見渡せる城の庭園に来ていた。

そよ風に髪が弄ばれる中、リオンの表情は少し浮かなかった。

そんなリオンを心配して、ソーディアン・シャルティエが声を掛けた。


『坊ちゃん、どうかしましたか?』

「あ、いや…、少し考え事していただけだ」

『僕でよければ、話して下さいませんか?』


リオンは一瞬躊躇ったが、周りに人の気配が無いのを確認すると、ぽつぽつと話始めた。


「僕は二つのものを手に入れることが出来て、本当に嬉しいんだ」

『坊ちゃん頑張りましたもんね!でも、どうしてそんなに浮かない顔をするんですか?』


シャルティエに問われて、ますます浮かない表情を浮かべる。


「これで、いいんだろうか?と疑問に思うんだ」

『どういうことですか?』

「何か、大切なものを見落としている様な気がしてならないんだ」

『大切なもの、ですか?』


リオンは軽く相槌を打つと、グレバムに言われた言葉を思い出す。


「グレバムが、僕に言ったんだ。《何も知らされていない》とな」

『あれはグレバムが黒幕だったし、あいつの言うことを信じてはいけません!』

「それは分かっている。だが、あの旅が終わってから、時折、考えてしまうんだ」


グレバムはリオンが知らないことを傑作だと言って笑った。

知らないということは、自らも知ることが出来たということなのだ。


「旅から戻ってきて、僕は順調だ。欲しかったものも手に入った。だけど、それが嵐の前の静けさに感じるんだ」

『坊ちゃん……』

「カルバレイスの時もそうだったが、また、何か大きな決断を迫られるような気がするんだ」

『大丈夫ですよ、坊ちゃん!あの時も言いましたが、僕がいるじゃないですか!』


シャルティエは自身のレンズを光らせて、励ましをアピールする。


『選択が間違ったら、僕が一緒に背負います!それに、間違ってもいいじゃないですか!結果的に間違いであっても、後悔しなければそれでいいじゃないですか!』

「後悔をしない、か…」

『そうですよ!僕なんて、後悔ばっかりでしたよ?後悔しても良いことなんてなかったし、余計悪循環になっていってましたからね…』


苦笑しながら言うが、それがどこか説得力があり、リオンの悩みも少しずつ晴れていく。


「妙に説得力を感じるな」

『放っておいて下さい!どうせ、昔の僕は根暗で根性が曲がってましたよ!』

「根性が曲がってるのは、今でも変わらないだろう?」

『あー!それを坊ちゃんが言いますか?!坊ちゃんだって、充分曲がってますよ!』

「それは仕方ないだろ。生まれたときから、誰かさんがずっと側にいたからな」


しばしの沈黙後、2人はくすくすと笑った。

こんなに本音も冗談も言い合えるのは、リオンにとってシャルティエだけだった。


『坊ちゃん、気にしちゃダメです!今の状態が、何かが起こる前兆だったとしても、欲しかったものが手に入ったんだから、いいじゃないですか!ね?』

「それを、手放さなくてはいけなくなったとしてもか?」

『はい。手放して、後悔しなければそれでいいと思います。それに、手放すということはそれだけの決断をしたということです。絶対に、後悔はないと思いますよ』

「そうか。なら、僕が手放しそうになったら、シャルは全力で止めてくれ」

『止めるんですか?』

「そうだ。その時は、きっと僕は周りが見えていないだろう。だから、僕を止めるのは、シャルの役目だ」

『分かりました……』


すると、今度はシャルティエの方が拗ねたような声を出した。


「どうした?」

『まぁ、別にいいんですけど…それって、やっぱりマリアンが一番ってことですよね?』


思わず出したシャルティエの本音に、一瞬きょとんとした表情を見せたが、次には可笑しそうに笑いだした。


『どうして、笑うんですか!僕には坊ちゃんだけなんですよ!酷いじゃないですか!』


シャルティエは憤慨する。

それを宥めるように、リオンは首を振った。


「違う。シャル、勘違いしている」

『勘違い?どこがどう勘違いなんですか?』


リオンはシャルティエに微笑み、そっとレンズを撫でると言葉を紡いだ。

その言葉に、シャルティエは返す言葉がなかなか見つからなかった。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ