長編3
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始まりの合図は、すさまじい程の爆音だった。
その爆音による地響きは、両軍の士気を乱れさせた。
普段の早朝とは異なり、空が禍々しく赤に染まっている。
炎が燃え盛るその場は、南の基地がある方向だった。
ただし、基地よりかは遥かに離れた場所だ。
そこには、敵国と自国の兵が睨みあう所でもあり、昨夜はその両軍の兵が駐屯していた。
そんな広範囲を敵・味方もなく炎が包み込んでいた。
それを確認した外部顧問らは、顔色が青ざめていた。
「どういうことだ!?」
「なぜ、敵も味方もなく全滅している?!」
そこには大総統閣下もいるが、彼は外部顧問らの問いには答えずに見下ろしているだけだった。
ヒューゴたちがいる南基地も、動揺が広がっていた。
「何だよ、あれ?」
「誰かがやったんだろう。味方か敵か…」
「敵なら強敵、味方なら心強い」
「どちらにしろ、あれをやってのけた人物が恐ろしいよ」
アッシュら4人は立ち上がる黒煙と煌煌と燃え盛る炎を見ながら、固唾を飲み込んだ。
彼らを横目で確認しながら、ヒューゴの顔は深刻だった。
「ヒューゴ」
「あぁ、分かっている。あれは、やり過ぎだ」
南の基地と対面するように配置された敵国の陣地でも、慌ただしさがあった。
兵たちは出鼻を挫かれ、悔しがる者や復讐を誓う者など様々だ。
トップの者たちは至って冷静を装うが、内心では焦りが生じていた。
誰よりも、戦争に初めて参加するバチカルの王・チリャードが顕著に表れていた。
「この程度で焦るな」
「焦るなって、悔しくないのか?!」
「そうだな。こんな戦の始まりは初めてだ」
「だったら!」
「だが、焦った所で何になる。お前がそんな顔をすれば、民は不安になる。兵の士気にも関わる。お前はお前の立場をよく考えろ」
激しく怒気するわけではないが、静かに淡々と言うガイアスの言葉には重みがあった。
そして、北の基地でも同様だった。
それでも、ほかの基地よりかはかけ離れており、事態の重さがそれほど伝えられていなかった。
何故なら、ここにはスタンが率いる少年兵しかいなかったからだ。
ここに来る予定の大人兵は、まだ到着していない。
「あれは……」
「俺たちは、ずっと此処でこうして見ることしか出来ないんだ」
立ち上がる黒煙に、スタンはある人物が浮かんだ。
予想は間違っていないはずだ。
それでも、違って欲しいと願ってしまう。
「……リオン」
口から思わずついて出たジューダスの言葉に、スタンの肩が僅かに震えた。
「リオンが、どうかした?」
「もし、あれがリオンのやった事だと考えると…」
「怖い?」
ジューダスの様子を見ながら、スタンは問う。
それに答える事ができないが、答えは明白だった。
ジューダスの体が小刻みに震えている。
スタンでさえ、初めて見る光景に震えが止まらないのだ。
この戦に初めて参加する少年兵たちは、どれだけの恐怖が押し寄せているのか。
考えるだけ無駄かもしれないが、悲しく思う。
「心配はいらないよ」
それは何に対しての言葉なのか、その時のジューダスには分からなかった。
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