長編3

□U
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ジューダスやユーリたちが配属されてから数日が経過した。

両軍共これといった動きはなく、均衡状態が続いている。



そんな中、ユーリはもう一度隊長室に訪れていた。


「さて、と。行きますか」


一歩進むと、ドアが開く。

部屋には、ベッド上で片膝を立てて考え込んでいるリオンの姿があった。

前髪の合間から確認し、ユーリだと分かると目付きが鋭くなった。

だが、それは一瞬のことで、すぐに興味の対象が削がれたように目に何も映さなくなった。

その変化はリオンをよく知る人物でなければ、分からないほどの微微たるものだ。

口にはしないものの、それにユーリは気がついた。


「要件は何だ」

「改めて、隊長さんを確認しに来た」

「なら、もう用は済んだだろう。出ていけ」

「分かった……って、言ってやりたいんだが、前回のあんた見てるからそうもいかねぇな」


ユーリが何を言いたいのか瞬時に理解したリオンは、不敵な笑みを浮かべた。


「ジューダス、のことか」

「!!」


まさか自らその名を口にするとは思ってなかったユーリは驚愕する。


「あの時は、まさかお前の口からその名が出てくるとは思ってなかったからな。でも、調べればすぐに分かった」


立ちあがって、ゆっくりとユーリに近づいて行く。

笑みは浮かべているも、目は無表情だ。

死んだような深く深く暗い色で、光など一切ない。


「剣の腕を買われ、セインガルドに拾われた。セインガルドというよりも、この軍のある人物に拾われた、という方が正しいか」


その言葉に、ユーリの表情が曇り、隊長であるリオンを睨みつけた。


「拾われた後は、数か月だけ養成に。その時に、ジューダスと一緒になったんだろう」


リオンはユーリの真正面ではなく、真横で立ち止まった。


「ジューダスがどうお前と接したかなど興味ないが、僕は誰とも慣れ合うつもりはない」

「それは……ジューダスもか?」

「そうだ。相手が誰であろうと、僕は慣れ合うつもりはない。慣れ合いは、死を招くだけだ」

「っ!!」


淡々と何の感情も見せずに言うリオンに、ユーリは彼の方に勢い良く振り向いた。


「必要以上の慣れ合いなど邪魔なだけだ。任務に支障が出る。それに………」


言葉を一端切ると、敢えてユーリと視線を合わせた。


「殺す時にめんどうになるだろ?」

「お前………っ!!」


ユーリは思わずリオンの胸倉を掴んだ。

いや、掴んだつもりだった。

一瞬掴んだのだが、すぐさま掴んだ手を外され、次に壁へと突き飛ばされ、気がつけば顎に剣先を突き付けられていた。

それはほんの数秒の話で、ユーリでさえ何の対処も出来なかった。


「部隊長と言えど、この程度か」


すっと剣を鞘にしまう。

そして、部屋から出ていこうとする。


「おい!待て!」

「もう、貴様に用はない」


その後もユーリからの制止がかかるも、聞く耳を持たず、あっという間に部屋から出ていってしまった。

1人残されたユーリは、悔しそうに腕を強く抑えた。

よく見れば、細かく震えている。


「……はっ、俺が、恐怖を覚えたってか……くそっ」


あの剣先を突き付けられた一瞬、凄まじい殺気も向けられた。

リオンがいなくなって緊張が解けたのか、その時感じた恐怖が、一気にユーリの身体を襲った。

今まで、抵抗する暇も与えられずに殺気だけで拘束されるなんてことが無かった。

戦場で戦う兵士は、ただの騎士団とは比べものにならないのは知っていた。

それでもユーリはやっていけると信じていたし、それなりの実戦も数度経験したことがある。

そのことについて今は何も言えないが、それらを踏まえてもリオンは異常だと、危険だと分かった。


「とんでもないところに来た、っていうことか……」


壁を殴りつけると、ユーリも部屋を後にした。


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