長編3

□T
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別れは突如訪れる。


















ジルクリスト家には可愛らしい瓜二つな双子がいた。


1人は元気で活発な男の子。

もう1人は身体が弱いも素直な男の子。


2人はとても仲が良かった。


どんなときも一緒だった。




そんな彼らを離れ離れにする出来事が起こった。








「父上!おかえりなさい!」


ジルクリスト家の主であるヒューゴが、ある1人の男性を連れて双子の部屋に入って来た。

男性の胸元には、軍人である証のバッジが光っている。

襟元には階級を示すバッジ。

ヒューゴも男性と同じ軍人だ。

互いの階級を見れば、ヒューゴより男性の方が上だった。


「ただいま、リオン」


自分の元に駆け寄って来た双子の1人・リオンの頭を撫でる。

リオンは嬉しそうに笑う。


「父上、おかえりなさい」


リオンより少し落ち着いた声が響く。


「ただいま、ジューダス」


ヒューゴはベッドの中にいるもう1人の双子・ジューダスに優しく微笑んだ。


「父上、聞いて?ジュダね、きょう、身体の調子がいいんだ!」


今度は、ジューダスの方へと駈け出していくリオン。


「それでね!お昼からは、スタンとカイルと遊ぼうって話してたんだよ!!」


ねぇ〜、と2人一緒に笑い合う双子を微笑ましく思うも、これから告げる話に、ヒューゴの胸が悲しくなった。


「ヒューゴ、分かっているな」

「はい………」


男性に促され、ますます胸が苦しくなる。

ヒューゴは一歩踏み出すと、双子の目線に合わせて膝を折った。


「リオン、ジューダス、今から大事な話をするから良く聞きなさい」


いつになく真剣な表情のヒューゴに、双子は互いに顔を見合わせ首を傾げた。


「前も話した通り、パパが軍人だから2人が軍の養成学校へいつか行かなければならない、と言ったことは覚えているか?」


2人は迷いなく頷いた。


「覚えてるよ」

「あの後、2人で父上みたいになろうね!って話てたんだ」

「本来なら、10歳になってから正式に知らせが来るんだ」


どうしてそんなことを言うのか分からない2人は首を傾げる。


「だけどね……パパのせいで、2人が今すぐに養成学校に入ることが決まったんだ」

『!!?』


1人は顔を輝かせ、1人は顔を曇らせた。


「本当に?!じゃあ、僕の身体も強くなるかな?」


ジューダスが身体の弱さを克服出来るのではないかと思いを募らせる一方で、リオンは顔をさらに曇らせていた。

その表情は、ジューダスからは一切見えない。


「リオン、どうした?」


そんなリオンをヒューゴは心配する。


「…………だよ」

「リオン?」


ジューダスもリオンの様子が可笑しいことに気付き、そっと上半身を起こし、リオンの様子を窺った。


「ダメだよ!そんなのダメ!!早すぎるよ!!」

「リオン、どうしたの?」

「…………リオン」


ヒューゴだけはリオンがどうしてそんなことを言い始めたのかを理解していた。


「すまない。パパのせいなんだ。パパを怒ってくれていいんだよ」

「僕は知ってるよ!ジュダが激しい運動しちゃいけないって!ほっさ、っていうのも起こるってことも!」

「リオン、僕はだいじょうぶだよ?だって、きょうも………げほっ!」


一度咳をしたと思うと、さらに激しい咳に見舞われるジューダス。

それを心配して、リオンがそっと背中を擦った。


「ジューダス、だいじょうぶだからね」

「けほっ……あ、りがとう、リオン」


リオンを心配させないように微笑みかけるが、それはリオンの中にある決意を確実なものとした。


「やっぱり、やだ!あんなとこに行っちゃうとジュダが死んじゃうよ!」


大きな瞳に涙を浮かべながら、若干5歳にして大人たちに訴える。

そして、ヒューゴも辛さに耐えられず、男性を顧みた。


「元帥!やはり、もう少し時期を延ばしては頂けませんか?」

「ヒューゴよ、君の頼みなら……と、言いたいが、それは出来んよ。君だけ特別扱いなど出来ぬ。そんなことをすれば、小煩い外部顧問らが黙ってはいない」

「分かっております!ですから、私が……」


元帥の地位を持つ男性は、それでも首を縦には振らない。


「だったら!僕が!僕が、ジュダの分まで頑張るから!ねぇ、それならいいでしょ?」


リオンが男性の元に駆け寄り、必死に訴える。


(まだ、5歳だというのに……)


男性も分かっているのだろう。

だが、軍での決定は決定だ。

覆すにはそれ相応の代価が必要となる。


「リオン君だったね。どんな過酷な訓練にも耐えられるかな?」


こくん、と頷き、強い意志を宿した瞳で男性を見る。


「僕がジュダの分まで頑張れば、ジュダはいいよね?身体が良くなるまではいいよね?」

「約束しよう。ジューダス君には、身体が万全になるまでは招集はかけない」

「ほんとに?!」

「ああ、約束だ」


男性はリオンの目線の高さになると、そっと小指を差し出した。

それにリオンも応じ、笑顔が戻った。


「ヒューゴもそれでいいね」

「はい、感謝致します」


ヒューゴも深々と頭を下げた。

軍の事情ややり方を知っているヒューゴにしてみれば、男性の言葉は有難かったのである。

しかし、その結果に納得いかない人物が1人。もちろん、ジューダスである。



「や、だよ……それって、リオンと離れ離れってことでしょ?」


ジューダスの気持ちも分かる。

双子の母親は元々身体が弱くて、2人を生んで死んだ。

ヒューゴは軍の中でも階級は高く、忙しい身。

大きな家には双子だけが残されていた。

世話係のメイドや執事も雇ってはいるが、家族はその4人しかいない。

そんな所に、1人残されてしまうジューダス。

寂しくないわけがない。

まだ、5歳なのだから。


「ジューダス……」


どうにもしてやれない自身の不甲斐無さに、憤りを感じるヒューゴ。

そんな時、リオンがジューダスの手を取った。


「ジュダ、約束しよう?」

「やく、そく?」

「うん、約束!ジュダがいない間は僕が頑張るから、ジュダは身体を強くしてよ!そしたら、2人で一緒に父上みたいになろうよ!」


5歳ながらも気丈に振舞うリオンに、ジューダスは何度も頷いた。


「すぐ良くなるからっ!すぐ行くからっ!だから……死なないでね?」

「うん!ジュダも死んじゃやだからね!」


2人で指切りを何度も何度も交わした。



「ヒューゴよ。彼は、目を付けられるだろうな」

「私は、そうならないことを願うまでです」


2人の視線はリオンのみに向いていた。









そして、数日後。

その日は来た。


ジルクリスト家の玄関前で別れの時を過ごしている。

そこには幼馴染のスタンとカイルもいる。


「リオン……」


心配そうに見つめるスタンに、リオンは笑顔を向けた。


「心配しないで、スタン!僕、頑張れるから!それにジュダとも約束したから!!」

「ジューダスと?」

「うん!でも、内容は秘密!」

「そっか。じゃあ、俺とも約束しよう?」

「スタンと?」

「ダメか?」

「別に、いいけど……」


すると、ぱぁっと明るい笑顔を見せたスタンは、リオンの耳元で何かを囁いた。

それに答えるように、リオンも耳元で囁いていた。


「じゃあ、約束!」


スタンは小指ではなく、握手を求めていた。

それを不思議に思いながらも、リオンは応じた。


「リオン、そろそろ行こうか」

「はい、父上!」


ヒューゴに手を引かれる。

一度止まって、皆を振り返った。


「皆、また会おうね!!」


元気よく手を振った。

それに三人も答えた。
















その日を境に、双子の運命は大きく分かれてしまった。


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