長編2
□19章
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リオンがそっと瞼を持ち上げた。
その時に視界に入ったのは、暗い天井のみ。
ゆっくりと体を起こすと、腹部に鈍い痛みを感じた。
「っ、………死ぬことは出来ないか」
「そんなに死にたいのか?」
「…………ミクトラン」
ミクトランは液体の入った瓶をリオンのすぐ近くにあった棚の上に置き、彼の横に座った。
「僕は何のために生きているのかが分からない。シャルをこの手で刺してしまった。それに、アシュレイ様までも苦しめた。どれだけ罰を受けても、償われることなどない」
「お前は仲間を裏切り、最愛の師を殺し、朋を刺し、周りの者を苦しめた。最早、お前に帰る場所などありはしないのだ」
夢と同様な言葉に、リオンは俯く事しか出来なかった。
そして、ふとした時に甘い匂いを鼻孔に感じた。
その匂いは、今までの事を忘れさしてくれる様な感じだった。
「僕は………1人?」
「そうだ。お前を求める存在などいはしない。お前がどれだけ求めても、応えてくれる存在もいない。お前は、1人なのだよ」
ミクトランの言葉が、頭の中で復唱される。
自分は1人なのだと、嫌でも認識せざるをえない。
だんだんぼーっとしてきた頭は、考えさせる事を拒み始めた。
「だが、私だけはお前を求めてやろう。欲してやろう。お前の存在を認めてやろう」
「………僕を……僕自身を見てくれるの?」
「ああ。私は忠実な人形(おまえ)が欲しいのだ。お前が私のモノになるというのなら、愛してやると何度も言っただろう?」
優しげな口調で話していたミクトランの気配が、突如、冷たいモノへと変化した。
「だが、お前は私の言いつけを破った。私の言う事が守れない人形(おまえ)など、必要ない」
これまでミクトランの手によって、多くの暗示をかけられてきたリオンにとって、その言葉は絶望的だった。
今のリオンが縋れるのは、この男のみ。
そんな男から拒絶されれば、リオンは自分の存在価値を見出す事が出来ない。
「ごめんなさ、いっ………許して、ゆるして………僕を、捨てないでっ」
瞳には涙を溜め、リオンは男に縋りつく。
「捨てられたくなければ、私に逆らわないことだな。これが最後だ。守れるか、エミリオ?」
リオンはこくりと頷いた。
「ならば、今まで通りお前を愛してやる。だがその前に、お前にはお仕置きが必要だな」
そしてミクトランは嗤った。
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