長編2
□15章
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薄暗い部屋の中に、男はソファに身を委ねていた。
ここは学校に備え付けられている、理事長室。
この理事長室は生徒や先生も出入りが可能で、部屋のすぐ前を生徒らがよく行きかうような場所にある。
立ち入り禁止区域にある理事長室とは、また別物だ。
言わば、この理事長室はダミーみたいなものだ。
そんな部屋に、ミクトランはいる。
「くくく、奴を目の前で刺したことで、より従順になった」
ミクトランの膝の上には、リオンが横になって眠っていた。
愛玩動物にするように、リオンの髪を撫でた。
「お前は、私の最高傑作だ。これで、後は奴の絶望に歪む顔を拝み、二度と這い上がれなくなるように、突き落とすだけだ」
手の動きとは不釣り合いな笑みが、顔に張り付けられた。
「お前にはもっと愉しい場面を見て貰わねばな」
視線をリオンに向ける。
健やかに眠っているとは言い難い程、リオンの顔色が悪かった。
「エミリオ、起きるんだ」
そっと耳元で囁くと、リオンの瞼が徐々に持ち上がっていった。
先程までどれだけ男がリオンに触れようとも、起きる気配さえ無かった。
それなのに、男が彼を呼ぶだけで彼は起きた。
「………ミクトラン」
少し虚ろな瞳で、リオンは男の名を口にした。
「仕事だ」
「し、ごと?………なにを、すれば?」
「何もしなくていい。ただ黙って事の成り行きを見ていればいい」
「みる、だけ?」
「そうだ。今から、自分の寮の部屋に向かうんだ。何があっても目を反らすな。分かったか?」
リオンは頷くと、身体を起こして裸足のまま床の上に降りた。
「リオン、無事返ってきたら………また、愛してやろう」
触れるだけの口づけをすると、リオンの頬が少し朱に染まる。
「さあ、行って来るんだ」
背中をおしてやると、ゆっくりとリオンは部屋から出ていった。
「本当に従順だ。《あの時》もこうしていれば、世界は私のものだったのかもしれないな」
ミクトランは過去を思い出すも、それを悲観することなく、ただ可笑しそうに嗤った。
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