長編2

□15章
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重苦しい空気が流れる中、規則的な機械音だけが響いている。


未だに意識が戻らないシャルティエと出血死寸前までいきかけたウッドロウを、スタンたちは沈痛な面持ちで見守っていた。


「あんた達も気をつけなさい。次はどっちかが狙われるわよ」



ハロルドの言葉に、スタンとフィンレイの顔が険しくなった。



「それからリオンは、戻らないかもしれないわね」


「リオンは、必ず戻ります!!」



「それもどうかしらね。あいつ、ミクトランだと分かっておきながら、今も側にいるかもしれないのでしょ?だったら尚更じゃない」



「リオンはっ………!?」



ハロルドに反論しようとするも、スタンは言葉が続かなかった。



誰よりもリオンが頑固で、一度決めた事は曲げない事を良く知っていたからだ。



《あの時》もそうだった。



誰にも相談することなく、1人で決めて、1人で苦しんでいた。


それが今回も同じだとしたら、リオンが戻って来る確証なんて無い。



「俺、またリオンを救えないのか?」



「そんな事はない。《あの時》もリオンは、君の説得に応じたのだろ?」


スタンが、こくりと頷く。



「だったら、心配はない。今度もリオンの目を覚まさしてやればいい。君の気持ちをありのままに伝えれば、リオンに届く」



「俺なんかより、フィンレイさんの方が……」



「私は見守ることしかできない。それに、リオンを助けようとすると、心を痛める人がいる。私はどちらも助けたいと思う。だが、両方は無理だ。どちらかを選べば、どちらかが悲しみ、拒絶する。悪循環だ。だから、リオンの方を君に託すよ」



少し悲しそうな笑みを向けるフィンレイにつられて、スタンも悲しんだ。



「それって、リオンと同じぐらい大切な人なんですか?」



「そうだ。私の唯一の兄弟だ」



「そうですか。………フィンレイさんなら、きっと大丈夫です!俺も、リオンを連れ戻します。だから、約束して下さい。また、笑って皆の元に戻って来る、と」



「ああ、約束しよう。もう、大切な者を守れずに悔やむのはご免だ」



スタンとフィンレイの気持ちが通じ合った所で、ハロルドが一つ咳払いを入れた。



「2人で仲良くしてるところ悪いんだけど、ちょっと頼まれてくれない?」



「俺ら2人にですか?」



「そう。私はここから離れられないから。まず、フィンレイ。シャルティエの部屋にある資料を持ってきて欲しいの」



「何の資料だ?」



「行けば分かるわ。それから、スタン!あんたは、リオンを恨んでいる覚醒者を連れて来なさい」



「そんなの分かるんですか?」



「ええ、分かるわ。誰でもいいのよ。少し試したい事があってね。探さなくても、あんたの身近にいる奴でもいいわ」



ハロルドの言葉に困惑するスタンを他所に、さらにハロルドは続けた。



「私が予想している事が正しければ、ミクトランをどうにかできる。そのためにも、実験する必要があるのよ。スタンの方は心配ないと思うけど、フィンレイの方は危険かもしれない。どう?」


ハロルドは、フィンレイ自身に回答を促した。



「今更だ。あまり私を侮らないでいただきたい」



「あら、それは失礼。でも、油断は禁物よ!どちらか一方でも、欠けたらいけないの。だから、無事戻ってきてよね!」



「分かりました。どれぐらいまでに戻ってきた方がいいですか?」



「そうね………生徒が登校し始める前には。そうしないと、自由に動けないし、相手側も見付けられないわ。フィンレイの方は、資料だから隠滅される可能性があるから、早めにお願い」




「分かった。ならば、早速行動しよう。時間も少ない」



「そうですね。それじゃあ、ハロルドの方も気をつけて」



2人が保健室から出ていくのを静かに見守った。




それからしばらくして、保健室の扉が開いた。



「あら、まさかあんたが来るとわね」




その訪問者に、ハロルドは笑った。



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