長編2
□11章
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朝からあんな夢を見たスタンは、どうも授業に出る気になれず、校庭をぶらぶらと歩いていた。
敷地が広いだけあり、人と会う事がほとんど無かった。
時々、すれ違う生徒の会話が気になるだけで、他に何かしようとも思わなかった。
「……………あいつを知っているはずなのに、誰だか分からない。前までは、知ってたはずなのに………あの日以来から、名前が出てこないんだよな〜」
今日何度目になるかも分からないため息を吐き出すと、近くにあったベンチに腰掛けた。
「あんな夢見たの初めてだ。…………あの少年に何かがあったのかな?何も思い出せないし、何したらいいか分からないし………俺って、夢でも現実でも役立たず?」
自問しても何の解決にもならない。
いつも分からない事は、諦めるか、いつの間にか忘れている。
それなのに、この夢だけは、どれだけ違う事を考えようと、忘れようとしても、すぐに思い詰めてしまっていた。
胸の内に何か得体の知れないモヤモヤ感があり、それがどうしても拭い去る事が出来ないでいるのだ。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!もう、俺にどうしろっていうんだよっ!!」
叫んでみるも、答えなど出てくるはずもなくただ脱力感が増すだけだった。
「はぁ〜………ホント、俺何やってんだろ」
「本当ですよ。こんな所で、何やってるんですかスタンさん?」
「ん?あ………ロニ!おはよう〜」
「おはよう、じゃないですよ。教室に行けば、来てなかったので、まだ寝てるんじゃないかと思って起こしに行こうとしてたんですから」
早口で捲し立てるロニに、苦笑しながらも謝罪を入れるスタン。
そんなスタンに肩を竦めるも、ちゃっかりスタンの横に座った。
「どうかしたんですか?顔色悪いですよ?」
「え、マジ?!」
「マジです」
「んー………ちょっと夢見が良くなくってな」
頬を掻きながら話すスタンを横目に入れつつ、スタンに気付かれないようにロニは表情を曇らせた。
「うなされてるとか、そんなじゃないからな!!勘違いするなよ!!」
「分かってます。で、どんな夢なんですか?」
「そうだ、な〜………大切な人を守れない、夢かな?」
少し照れくさそうに、だけどすぐに悲しそうな顔をする。
その悲しそうな顔が、いつも見ている顔とはかけ離れていて、見る度に無力感を感じる。
「…………大切な人って、誰ですか?」
「それが、分からないんだ。不思議な話だよな」
スタンの口からリオンの名が出てこなかった事に安堵しつつ、どこか不安を感じてしまった。
前まで、彼の口からリオンの名を頻繁に聞かされていた。
だけど、ここ最近だ。
ぱたりとリオンの名が止んだのだ。
初めは、嬉しく感じた。
だが、日が経つにつれて不安を感じ始めるようになったのだ。
可笑しな話しだと思う。
「スタンさん、リオンの話聞きましたか?」
「リオン?容姿端麗、秀才のあの一年生の事?」
「え?………そう、です」
予想と違った答えが返ってきて、戸惑ってしまった。
(あいつを忘れてる?)
「で、そのリオンがどうかしたのか?」
「何でも、姿を消したらしいですよ?本当かどうか知りませんけど」
「姿を……消した?ふ〜ん、休学じゃないのか?」
リオンが風邪だと知った時は、あれほど騒いでいたスタンが、今は興味もなく他人事のように喋っていた。
ロニはそんなスタンに、違和感を感じた。
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