長編2

□11章
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『……ンッ!…………ンッ!!』



まただ。



また、あの時と一緒だ。



視界に靄がかかり、相手が分からない。



分からないはずなのに、相手はいつも悲しそうに微笑っている。



その手を取って、引き寄せて、抱きしめてやりたいのに、それが出来ない。



目の前には、いつも見えない壁に阻まれている。



────どうして、いつもそんな顔するんだよ?




────何で、俺を拒むんだよ?





────俺は、そんなに頼りないか?





そういつも問いかけているのに、答えは返ってこない。




この状況をどうにかしようと考えていると、辺りが急に闇に囚われた。



でも、相手のシルエットははっきりとした。



それは初めての事だった。



目の前にいるのは、自分と然程歳が変わらないであろう少年。


彼は背を向けているため、誰なのかは分からない。




すると、少年の顔が横を向いた。



目は前髪で覆われて、表情などが確認出来なかった。




『………お前は………っ?!』



彼に問いかけようとした時、彼の前方から白い手が伸びてきた。



その手が彼を捕える。



『やめろっ!!………を離せっ!!』



無意識に叫んだ。



だけど、聞こえていないのか、彼らは何も反応しなかった。



そして、その手が彼を連れていく。



彼はそれに逆らうことなく、その手に連れていかれている。




『ダメだ!!戻ってこい!!………!!』




声が届いたのか、彼が歩みを止めた。



視線がこちらを伺っている様な気がした。



少し上げられた横顔から口が見えると、言葉を紡いでいた。







『       』






何を言っているかは聞こえなかったが、それは恐らく悲しい言葉だと思う。





何故かって






それは








彼が、












泣いていたから



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