長編
□哀歓
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あれから何事も無く数日が経った。
リオンは記憶の無い生活に慣れていき、それが当たり前になりかけていた。
一方フィンレイは、リオンと会わない生活を続けていた。
しかし、壁一つ向こうの生活はフィンレイを蝕んでいく。
「フィンレイ…………リオンに全部打ち明けないのですか?このまま」
アスクスが日に日に弱っていくフィンレイを見ていられなく、思い切って尋ねてみた。
「………私はリオンを捨てた人間だ。リオンに会う資格がない」
「そんなの分からないじゃないですか!?もしかしたら、リオンはアナタが来るのを待っているかもしれないじゃないですか!!」
アスクスの必死の説得にフィンレイは苦笑した。
「怖いんだ。また、拒絶されるのが………。あの時は、何かを期待しすぎていたんだ。心のどこかで、リオンが許してくれると」
「………リオンは許してくれると思います。ただ、理由が知りたいのではないのですか?リオンは待っているはずです。アナタが話してくれるのを」
アスクスの穏やかな口調に、フィンレイは幾分か救われた気がした。
たが、気持ちの整理が出来ていないフィンレイには、それを実行することは出来そうになかった。
(リオンがいないと私は、こんなにも弱くなった)
フィンレイはリオンを救い出した時に拾ったリオンのイヤリングを握り締めた。
全てを話す日が来たときに返そうと思って。
* * *
リオンは一人ある場所に来ていた。
「………シャル、僕は以前にもここに来たことがある気がするんだ。誰と来たか分からないが」
リオンが来ている場所は、フィンレイと訪れたあのベンチだった。
『坊ちゃん…………辛いのですか?』
「………辛い、か。そうかもしれないな。記憶がない生活に慣れて、忘れてしまいそうになる。それが怖い」
リオンは低い塀に身を任せ、城下を一望する。
「最近、同じ夢を見るんだ」
『夢、ですか……?』
「誰かの名前を叫びながら、手を必死に伸ばしているんだ。だけど、いつも掴む寸前で闇に囚われる」
リオンは優しくコアクリスタルを撫でる。
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